遺言の保管と執行 安全な遺言書の保管方法とは?自筆証書遺言書保管制度はどういう制度?遺言の執行についても詳しく解説 

最終更新日:2024/11/26

保管で悩むのは自筆遺言書のみ

自筆遺言書の場合、保管については特に悩ましい問題で、他の形式の遺言書と比べて慎重に保管方法を考える必要があります。

遺言によって自分の意思を確実に実現するためには、その遺言書が相続人によって発見されることが不可欠です。しかし、すぐに見つかってしまう場所では変造や隠匿の心配があります。

かといって遺言書が相続人に見つけてもらえなければ、せっかく時間と労力をかけて作成した遺言も、全く意味を持たなくなってしまいます。

遺言に記された内容は実行されず、遺言者の意図は実現されないままになってしまうのです。

自筆遺言書の特有の問題点

発見されにくい

自筆遺言書は自宅や個人の保管場所に置かれることが多く、相続人がその存在を知らない場合、発見されない可能性があります。

発見されなければ、遺言の内容が実行されることはありません。

紛失や破損のリスク

紙の書類である自筆遺言書は、火災や水害、その他の事故で簡単に紛失したり破損したりするリスクがあります。これにより、遺言の内容が失われる危険性があります。

改ざんのリスク

自筆遺言書は、他人によって改ざんされるリスクもあります。特に、遺言書が発見された後に内容を変更される可能性があるため、信頼できる場所に保管することが重要です。

他の形式の遺言書との保管方法の比較

公正証書遺言
場合

・公証人が作成し、公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、相続人が確実に遺言の存在を知ることができます。

・従って、相続人らに遺言書を作成してある公証役場の場所を伝えておけば十分です。

・遺言された方が生存中は、遺言書の存在が明らかになっても、ご本人以外が公証役場を訪れて遺言書の内容を教えて欲しいと要求したり、閲覧を請求したりしても、公証人がこれに応じることはありませんので、遺言の秘密を保てます。安全で確実さを重視するならもっともお勧めの方法といえます。

秘密証書遺言の
場合
・遺言者が内容を秘密にしたまま、公証人と証人の前で封印して保管する形式です。これも公証役場で保管されるため、発見されないリスクが低いです。
司法書士に
頼む場合

・遺言書作成の際にアドバイスを受けた司法書士に保管を頼むという方法があります。

・司法書士は法律により守秘義務を負っており、職務上知りえた事実を第三者に洩らすことは禁止されています。

・従って、遺言書の存在を秘密にしておくことも可能です。

第三者に
頼む場合

・自筆証書遺言の場合、親族等に預けることもあります。

・しかし法定相続人など遺産に利害関係のある方に預ける場合には、隠匿、改ざんの恐れがあり、逆に紛争の元となりかねませんので、なるべく遺産に何の利害関係がない、公正な第三者に保管してもらうようにしてください。
遺言で遺言執行者を定めた場合には、遺言執行者に預けておくのが適当です。

このように、自筆遺言書は他の形式の遺言書と比べて保管に関する問題が多いため、特に注意が必要です。遺言の内容を確実に実行するためには、信頼できる方法で保管することが重要です。

従って、遺言書は遺言者が亡くなった後に相続人らがすぐにわかるような場所で、かつ隠されたり、勝手に書き換えられたりする心配の無い場所に保管しておく必要があります。

普段は家族の目が届かないけれど、遺産整理の際には必ずチェックされるような場所を選ぶようにしましょう。

最適な保管場所が無い場合は法務局で保管がおすすめ 自筆証書遺言書保管制度とは?

2020年7月10日から法務局において自筆証書による遺言書を保管する自筆証書遺言書保管制度ができました。

この制度を利用することで、遺言書が相続人に発見されない、紛失する、または改ざんされるリスクを大幅に減らすことができます。

自筆証書遺言書保管制度で出来る事とは?

遺言者は、自筆証書遺言書を作成した後、法務局に保管の申請を行います。

申請には、遺言書の原本と必要な書類を提出し、保管の申請手数料を支払います。

法務局で安全に保管できる

法務局で遺言書の形式が法律に適合しているかを確認し、適切に保管します。

遺言書は、遺言者が死亡するまで安全に保管されます。

閲覧と証明書の発行ができる

遺言者は生前に遺言書を閲覧することができ、必要に応じて内容を変更することも可能です。

また、相続人や指定された受遺者は、遺言者の死亡後に遺言書の存在を確認し、証明書を取得することができます。

遺言者が死亡したら通知してくれる

遺言者が死亡した際、遺言書が保管されていることを相続人や指定された受遺者に通知する制度もあります。

これにより、遺言書が確実に発見され、内容が実行されるようになります。

手数料はいくらかかる?

自筆証書遺言書保管制度の各種料金は以下の通りです。

遺言書の保管申請 一件につき3,900円
遺言書の閲覧(モニター) 一回につき1,400円
遺言書の閲覧(原本) 一回につき1,700円
遺言書情報証明書の交付請求 一通につき1,400円
遺言書保管事実証明書の交付請求 一通につき800円

 

自筆証書遺言書保管制度のメリット

法務局で保管されるため、遺言書の紛失や改ざんのリスクが低くなります。

相続人や指定された受遺者に通知が行われるため、遺言書が確実に発見してもらえます。

また、遺言書の保管、閲覧、変更、証明書の発行などの手続きが一元化されており、スムーズに行えます。

この制度を利用することで、自筆証書遺言書の保管に関する不安を解消し、遺言者の意思を確実に実現することができるでしょう。

用意しておく必要書類は?

自筆遺言書

ホッチキス止めはせず、封筒も不要です。

保管申請書

あらかじめ記入しておきます。用紙はこちらのページからダウンロードするか、法務局で入手します。

記載例はこちらをご参照ください。

本籍が記載された住民票の写し

マイナンバーや住民票コードの記載がないもの

本人確認書類

顔写真付きの官公署から発行された身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)

手数料

遺言書1通につき3,900円(収入印紙で納付)

自筆証書遺言書保管制度の手続きの流れ

 1. 自筆証書遺言書を作成する

まず、遺言者自身が自筆で遺言書を作成します。

遺言書には、日付と署名が必要です。

また、内容が明確であることが重要です。自筆遺言書の詳しい書き方はこちらをご覧ください。

矢印

2. 保管申請先の法務局を決定

遺言者の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する法務局を選びます。

矢印

3. 保管申請書の作成

保管申請書に必要事項を記入します。申請書の様式は法務局のウェブサイトからダウンロードできます。

矢印

4. 保管の予約

選んだ法務局に保管の予約を取ります。予約は必須で、ウェブサイトや電話で行うことができます。

矢印

5. 法務局への来庁と保管申請

予約した日時に法務局に行き、以下の書類を提出します

自筆証書遺言書(ホチキス止めせず、バラバラのまま持参)

保管申請書

住民票の写し(本籍及び筆頭者の記載入り)

顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)

手数料(遺言書1通につき3,900円、収入印紙で納付)

矢印

6. 保管証の受け取り

手続きが完了すると、法務局から「保管証」が発行されます。

この保管証は、遺言書が法務局に保管されていることを証明するもので、再発行はできないため大切に保管してください。

 

後日、遺言書の閲覧と変更もできる

遺言者は生前に遺言書を閲覧することができ、必要に応じて内容を変更することも可能です。

閲覧にはモニター閲覧と原本閲覧の2種類があり、手数料が異なります。

※モニター閲覧は1,400円で原本閲覧は1,700円

 

住所や氏名の変更届出 遺言者の住所や氏名に変更があった場合は、法務局に届け出る必要がある

相続人や受遺者がスムーズに手続きを行えるようになるために変更があったら必ず法務局は届け出ましょう。

このように、自筆証書遺言書保管制度を利用することで、遺言書の紛失や改ざんのリスクを減らし、遺言者の意思を確実に実現することができます。

遺言書の検認(遺言書が見つかったら)

相続が開始し遺言書が見つかったら、どのようにして遺言が実現されていくのでしょうか?

公証役場に保管されている公正証書遺言や秘密証書遺言、法務局保管の自筆証書遺言は家庭裁判所で検認手続きが必要無く、相続開始後すぐに遺言者の意思を実現できます。(※検認とは、遺言書の形式や状態を調査して、その結果を検認調書という公文書にしてもらう事です。)

しかし自宅等保管の自筆遺言書はすぐに見つけられない場合もあります。

また、自宅等に保管している自筆遺言は、見つかった時点で速やかに家庭裁判所へ持っていくことになっています。

家庭裁判所では相続人の立会いのもと遺言書が開封され、検認されます。

なお、検認は遺言の有効・無効を判断するものではありません。

検認の前に勝手に遺言書を開封してしまったらどうなる?

遺言書を検認せずに勝手に開封してしまうと、いくつかの問題が発生します。

法律違反になる

民法第1005条により、検認を経ずに遺言書を開封すると、5万円以下の過料が科される可能性があります。

相続手続きの遅延を招く

検認手続きを経ないと、遺言書の内容に基づく相続手続きを進めることができません。

遺言書の有効性の問題が発生

遺言書が無効になるわけではありませんが、検認を経ないと遺言書の内容が法的に認められないため、相続手続きが進められません。

もし誤って開封してしまった場合は、速やかに家庭裁判所に提出し、検認手続きを受けることが重要です

遺言書が2通以上見つかったらどうする?

複数の遺言書が見つかった場合、まずそれぞれの封筒に書かれている作成日を確認します。

最新の日付の遺言書が優先されます。

封筒を開封することはできないので、見つかった遺言書はすべて家庭裁判所に持ち込んで検認をうけましょう。

家庭裁判所で内容を確認し、複数の遺言書の内容が矛盾しない場合、それぞれの遺言書が有効になります。

ただし、内容が矛盾する場合は、やはり最新の日付の遺言書の内容が優先されます

遺言執行

遺言の検認が終わると、いよいよ遺言内容を実現させることになります。

遺言書を実現するにはさまざまな手続きがあり、遺言ではそれを執行する遺言執行者を指定できることになっています。

遺言執行者とは?

遺言の内容には、認知、遺贈、推定相続人の廃除又はその取り消しのように、実現するための行為を必要とするものがあります。
その行為をしてくれるのが遺言執行者です。

遺言ではそうした遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委託したりすることができるのです。遺言執行者の指定は遺言の中だけで認められていて、生前の取り決めは無効になります。

職務が複雑になると予想される時は遺言執行者を複数名指定しておくことも可能です。
また、遺言で指定を受けた人が遺言執行者を辞退することも認められています。

遺言に指定がなかったときや、遺言執行者が辞任していないときは、相続人や利害関係人が家庭裁判所に選任の請求をすることができます。

遺言執行者は誰でもなれる?

遺言執行者は誰がなってもかまいませんが、法律の知識を要するので、司法書士などの法律専門家に依頼するのが通常です。

遺言執行者は選任を受けると早速遺言の執行にかかります。

遺言の執行手順

1 遺言者の財産目録を作る

遺言執行者は、遺言者の財産(不動産の権利証や預貯金通帳、株式などの金融資産)を調査します。

調査した財産を基に各財産の詳細と評価額を記載し、相続財産目録を作成します。

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2 相続人の相続割合、遺産の分配を実行する

遺言書の内容に従って、相続人の相続割合や遺産の分配方法を指定し、実際に遺産を分配します。不動産の所有権移転登記や預貯金の払出しなどの手続きを行います。

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3 相続財産の不法占有者に対して明け渡しや、移転の請求をする

不法占有者に任意で明け渡しを求めます。 訴訟: 交渉が不調なら、裁判で明け渡しを求めます。 登記移転: 不法占有者が不動産を自己名義にしている場合、登記の抹消を請求します。 強制執行: 裁判で勝訴したら、強制的に退去させます。

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4 遺贈受遺者に遺産を引き渡す

遺言書の内容に従って、受遺者に遺産を引き渡します。相続人以外に財産を遺贈したいという希望が遺言書にある場合は、その配分・指定にしたがって遺産を引き渡します。その際、所有権移転の登記申請も行います。

矢印

5 認知の届出をする

遺言による認知がある場合、遺言執行者は認知の届けを役所に提出します。

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6 相続人廃除、廃除の取り消しを家庭裁判所に申し立てる

必要に応じて、相続人の廃除や廃除の取消しを家庭裁判所に申し立てます。

遺言執行者はやることが多数あり、専門知識も必要

遺言執行者はこのようにさまざまな職務をこなしていかなければなりません。

調査、執行内容は相続人に報告していく義務がありますが、執行がすむまではすべての財産の持ち出しを差し止める権限を持っています。

相続人は、遺言執行の職務を終了したとき、それに応じた報酬を遺言執行者に支払います。

その報酬額は遺言でも指定できますが、家庭裁判所で定めることもできます。

手続の依頼 専門家に依頼するには?

遺言執行など複雑な手続きの処理をまかせるなら、やはり専門知識をもった司法書士にその職務を依頼することが望ましいです。

司法書士へは自筆証書遺言を作成するときのアドバイスや、公正証書遺言の作成支援を依頼することもできます。

また、相続開始まで遺言書の保管を任せる事もできます。
公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際は、証人として任命することもできます。

あらかじめ司法書士に遺言の相談をしておくと、トラブルの少ない遺産相続の実現に役立つことにもなります。

当事務所では、お客様の状況にあわせて迅速な対応をいたしますので、ぜひお気軽にご相談下さい。

この記事を書いた司法書士

司法書士 鈴木 喜勝司法書士事務所センス 代表司法書士
【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。

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