自筆遺言書の書き方について相続専門の司法書士が徹底解説!
最終更新日:2024/12/11
目次
自筆遺言書は手軽に作成できて何度でも書き直せる
遺言にはいくつか種類がありますが、中でも自筆遺言書は最も手軽に作成できる遺言書と言えるでしょう。
紙とペンと印鑑さえあればいつでも好きなタイミングで作成する事ができて時間を選びません。
また。最初から最後まで他人が関与することはありませんので内容はもちろんの事ですが遺言書の存在そのものも秘密にしておけます。
自身の状況や考え方が変われば何度でも書き直す事もできます。
手軽な自筆遺言書にもデメリットはある
1人で手軽に作成できる自筆遺言書ですが、その反面リスクも少なくありません。
保管を自身で行う為、紛失や偽造、変造される可能性もあります。
法務局に保管する事も出来ますが費用がかかりますし、家庭裁判所の検認を受ける手間もかかってしまう点もデメリットの一つです。
捺印や署名もれなど些細なミスで無効になってしまう恐れもあるので自身で作成する際には以下の点をおさえておきましょう。
自筆証書遺言作成のポイント
自筆証書遺言を作成する際には、法律のルールに従って形式に不備がないように注意しましょう。
といっで難しい事を要求されるわけではなく、以下の3つのポイントを最低限守る必要があります。
① 全文を自筆で記述すること。
遺言書は、遺言者自身の手によって書く必要があります。文書が遺言者の真の意志を反映していることが保証する為です。そのため、パソコンの文字や代筆したものは無効です。
ただし財産目録については書面に署名と捺印があれば、パソコンでの作成が認められていて、通帳のコピーや登記事項証明書なども使用できます。
③日付及び氏名も自筆で記述すること
遺言書を作成した日付を年月日が特定できるように記載します。
日付は遺言成立の時期を明らかにして、複数の遺言者の前後を判断する基準となるために非常に重要です。
〇〇年〇月〇日 というように記載するのご基本ですが 〇〇年元日 や 〇〇歳の誕生日 なども具体的な年月日を特定できるため有効です。
氏名は、本人が書いたものであることが明らかな時は名字または名前だけ、あるいは芸名などでも有効ですが、本名をきちんと書くのが無難です。
氏名をきちんと自書することによって遺言者が誰で、遺言書作成時点での遺言者の意思能力の有無が明確になります。
③ 捺印をすること
認印(朱肉を使う印鑑)や拇印でも有効ですが、実印を使用することが推奨されています。
実印は、遺言者の正式な印鑑であり、文書の正当性をより強固にしてくれるからです。
自筆遺言の書き方は自由
文書の縦書きや横書きは遺言者の自由に選べ、上記のポイントさえ守れば、使用する用紙にも特に制限はありません。
また、筆記具についても、ボールペンや万年筆など、どのようなものを使用しても問題ありません。ただし、鉛筆や消せるボールペンは安易に改ざんされる恐れがありますので避けましょう。
録音や映像による遺言は無効とされているため、文字による記述が必要です。
もしも途中で間違えてしまったら? 訂正の方法
遺言内容に誤って記入した箇所がある場合や、加筆や削除、その他の変更を加える場合は、方法が厳格に決められていて、この方法に基づかないものは変更が無効になってしまいます。
具体的な方法は以下の通りです。
一部の文言を削除する場合
削除したい箇所を二重線で消して上から捺印します。
印鑑は署名捺印に使うものと同じ物にして下さい。
書き直しの場合
変更箇所を二重線で消し、変更箇所の上から捺印します。
印鑑は署名捺印に使うものと同じ物にして下さい。
文言を追加する場合
追加したい箇所に「<」や「{」などの記号を使って、追加の文言を書きます。
さらに追加した箇所に訂正印を押します。印鑑は署名捺印に使うものと同じ物にして下さい。
変更内容を遺言書に必ず明記し、署名しておく
変更した場所と変更内容を遺言書の末尾や欄外に必ず付記します。ここまでは一般的な文書の訂正方法と同じですが、遺言書では署名を書く点が他のて文書の訂正と違うので、必ず署名しましょう
結論 訂正があまりにも多い場合は書き直しを!
以上のように、加除訂正の仕方は非常に厳格です。
訂正の仕方を誤ると訂正の効力が生じませんし、最悪の場合遺言全部が無効となりかねません。
あまりにも訂正箇所が多い場合は新たに遺言書を作り直すことをお勧めします。
トラブルを防ぐための遺言書とは
作成した遺言を家族に教えるのも1つの手
作成した遺言をあえて家族に公表して、前もって理解を得ておくというのも1つの考え方でしょう。遺産相続について生きている内に家族で話し合いを持っておく事は争いを防ぐという意味では理想的な事と言えるでしょう。
しかし実際には遺言者の死後に初めて家族が遺言の存在に気づく事が大半ですので、分かりやすく家族が納得するような遺言とする事が大切です。
誰にでも分かる遺言を
せっかく自筆遺言書を残しても、その内容に家族の理解が得られなければ争いの火種になってしまうかもしれません。
トラブルなく相続するためにも前述の形式のルールを守ること事に加え、誰が読んでも理解できる明確な書き方を心がけましょう。
何の財産なのか特定出来なかったり、いくつもの解釈ができてしまう曖昧な表現はトラブルの元です。
特定の人だけ不利にならないように
また、特定の相続人に極端に不利にならないように配慮する事も必要です。
例えば、遺留分の侵害があった場合、侵害された相続人は減殺請求により侵害額を回復する事はできますが、それと同時に家族にものすごく負担がかかってしまいます。
相続人の間で財産な取り分に差をつける事情がある場合は、出来れば生前に伝えておく方が良いですが、それが難しいようでしたら遺言にその事情を記しておきましょう。
このような心遣いと配慮が遺産争いを防げる事につながるのです。
自筆遺言書の基本テンプレート
遺言書
遺言者 氏名 は、次の通り遺言する。
※ここに主文を書きます。具体的にどの財産を誰に渡すか箇条書きにして分かりやすくします。
上の遺言のため遺言者みずからがこの証書の全文を書き、日付および氏名を自書し捺印した。
年 月 日
住所
遺言者 氏名
すぐに参考できる遺言文例一覧
財産の相続割合を指定する
各相続人の相続分を次のように指定する。
長女 遺言花子 四分の三
次女 遺言花代 四分の一
上は長女花子が病気だった遺言者の看護と生活の世話に尽くしてくれた事を考慮したものである。
法定相続分と違う相続割合を指定する時は、その理由や事情を付記しておきます。
特別受益の持ち戻しを免除する
長男 遺言太郎には住宅取得資金として700万円を贈与しているが、この分は同じ人の相続分から控除しないものとする。
生前贈与の持戻し控除の意思表示がある場合は 口頭での意思表示も可能ですが、後々の紛争を避けるために遺言に書いておくのが確実です。
相続人以外の人に遺贈する
遺言者の事実上の妻である花子に全財産の二分の一を遺贈する。
東京都練馬区〇〇一丁目一番一号 児童養護施設〇〇寮に現金500万円を遺贈する。
遺贈の方法には特定遺贈と包括遺贈があります。 包括遺贈の受遺者は遺産分割の協議に参加する事になります。そのため身内以外に遺贈をする場合は特定遺贈の方が良いでしょう
負担付きの遺贈をする
長男 遺言太郎に、次の財産を遺贈する。ただし妻花子に毎月六万円を支給すること。
長男 遺言太郎に現金200万円を遺贈する。ただし遺言者の愛犬コウタの世話をすること。
負担付きの受遺者は遺贈された財産の価額を超えない範囲でその負担を約束を実行する義務を負います。もしも受遺者がその義務を果たさない場合は相続人や遺言執行者は家庭裁判所に遺言の取り消しを求める事ができます。
祭祀財産の承継者を指定する
1 祖先の祭祀を主宰する者として長男 遺言太郎を指定する。
2 祭祀の費用として、長男 遺言太郎に500万円を相続させる。
生墓や位牌などの承継は相続とは無関係ですが、祭祀の主宰には物心両面の負担がかかることを考慮し、遺産を余分に分けるなどの対策をします。
遺言執行者を指定する
1 本遺言の執行者として次の者を指定する。
東京都練馬区〇〇一丁目一番一号
司法書士 鈴木喜勝
2 上の指定についてはすでに同氏の承諾を得ているので相続開始と同時に連絡をすること。
3 上執行者の報酬は金100万円とする。
遺言執行者に指定された人は辞退する事もできるため、事前に承諾を得ておきましょう。また報酬額も決めておくとトラブルも防げます。
特定の相続人を廃除する
長男 遺言太郎は長年に渡り私と妻に暴力をふるい、金品を奪い取るなどの非行を重ねたので、推定相続人から廃除する。
相続人の排除を遺言するときは遺言執行者の指定が必要です。遺言執行者に事前に相談し、廃除となる理由を詳しく伝えられるよう準備が必要です。
子を認知する
子が生まれている場合
長次の者は遺言者と山田一子の間の子であるので認知する。
本籍 神奈川県厚木市〇〇一丁目一番一号
住所 東京都練馬区〇〇一丁目一番一号
氏名 山田太郎
〇〇年〇月〇日生
子がまだ生まれていない場合(胎児の場合)
次の者が懐胎している胎児は遺言者の子であるので認知する。
本籍 神奈川県厚木市〇〇一丁目一番一号
住所 東京都練馬区〇〇一丁目一番一号
氏名 山田一子
〇〇年〇月〇日生
遺言で認知する時は遺言執行者の指定が必要です。執行者が認知の届を行う事になりますが子が成人の場合は本人の承諾が必要です。子が胎児の場合は母親の承諾が必要になります。
認知された子には他の子と同様に相続権がありますが紛争防止のため、特定の財産を遺贈する旨を合わせて遺言しておくのが良いでしょう。
特
長男 遺言太郎には住宅取得資金として700万円を贈与しているが、この分は同じ人の相続分から控除しないものとする。
生前贈与の持戻し控除の意思表示がある場合は 口頭での意思表示も可能ですが、後々の紛争を避けるために遺言に書いておくのが確実です。
法的な要件を満たすだけじゃない!大事な付言事項
遺言を作成する際には、法的な要件を満たすことが重要ですが、それに加えて、家族へのメッセージや遺言者の心境を反映する付言事項を含めることもできます。
これにより、遺言は単なる法的文書を超え、遺言者の人生観や愛情を伝える手段となります。以下は、遺言に含めることができる付言事項の例です。
家族へのメッセージ
遺言者は、家族や友人への感謝の気持ちや、未来への願いをメッセージとして残すことができます。これは、遺言者がこの世を去った後も、愛する人々に対する思いやりが伝わるようにするためです。
遺産配分の理由
遺言者は、特定の財産を特定の相続人に渡す理由を説明することで、将来的な誤解や紛争を防ぐことができます。これにより、遺言者の意志が明確にされ、相続人間の和解が促進されます。
個人的な願いや指示
遺言者は、自分の葬儀や記念式典に関する願い、または特定の個人的な品物の取り扱いについての指示を残すことができます。これにより、遺言者の意志が尊重され、遺族は遺言者の望む通りに行動することができます。
遺言作成の動機
遺言者は、遺言を作成するに至った動機や心境を述べることで、遺言の背後にある深い感情や考えを伝えることができます。これは、遺言者の人生の最終章を締めくくる重要な部分となります。
自身の思いを伝える大事な役目
これらの付言事項は、遺言者の個性や価値観を反映し、遺言者が生前に大切にしていたことを次世代に伝えるためのものです。法的な効力は持たないかもしれませんが、遺言者の意志や愛情を伝えるためには非常に価値のあるものです。
こんな遺言はトラブルになる!気をつけるべき事3つとは
財産が特定できない
記載内容に誤りがあったり、あいまいな表現を使って人によって解釈が分かれる書き方は、余計な紛争を招きます。
遺留分の侵害がある
遺留分を侵害する方と侵害された方で、関係が険悪になってしまう可能性があります。
形式に不備がある
日付や署名捺印が封筒にしかなかったり、訂正方法に誤りがあると、有効、無効をめぐり裁判に発展してしまう恐れがあります。自筆遺言書は専門家の目が行き届かないので、必ず不備のない遺言書を作成しましょう。
自筆証書遺言書の作成例
遺言書
遺言者 山田遺郎は次の通り遺言する。
1 妻山田一子に次の財産を相続させる。
⑴東京都練馬区〇〇一丁目一番一号
宅地 250.50平方メートル
⑵同所同番地所在
家屋番号〇〇番 木造瓦葺平家建居宅
床面積 150.50平方メートル
⑶上の家屋内にある動産一式
不動産は物件を特定できるように、登記簿通りに具体的に書く
2 長男 山田一郎に次の財産を相続させる。
⑴〇〇銀行〇〇支店 定期預金 口座番号1234567
⑵株式会社〇〇の株式2万株
3 亡次男の妻山田遺子に次の財産を遺贈する。
〇〇郵便局の定額貯金 証書番号1111
上の遺言のため遺言者みずからこの証書の全文を書き、日付および氏名を自書し捺印した。
〇〇年〇月〇日
東京都練馬区〇〇一丁目一番一号
遺言者 山田遺郎
作成日を必ず記入し、署名捺印する。印鑑はできれば実印を使う。
封筒の書き方を解説
一目で遺言書とわかるようにします。作成した日付と署名も書きます。
変造防止のために封印を押して、印鑑は必ず遺言書と同じ物を使いましょう。
注意!こんな自筆遺言書は無効
音声や映像
ボイスレコーダーやビデオなどの音声や映像は無効です。
必ず書面で残しましょう。
日付をスタンプで押す
日付にいたるまですべて手書きにします。
日付が特定出来ない
「〇〇年元日」は有効ですが「〇〇年吉日」は無効です。
「〇〇歳の誕生日」は有効ですが「〇月の誕生日」は無効です。
代筆してもらう
絶対に本人が書く必要があります。パソコンの文字も駄目です。
もし文字が書けない場合は公正証書遺言で作成しましょう。公正証書遺言は信頼性が高く、形式不備で無効になるリスクが低いため、手書きが難しい場合に、おすすめです。
署名、捺印が無い
出来れば実印が良いですが認印でも良いので必ず捺印しましょう。署名も必ず手書きにします。
夫婦や親子で一緒に書く
共同遺言は遺言者同士が互いに影響を受けてしまい、本来の意思が反映されにくくなる可能性がある為、日本では認められていません。
必ず1人ずつ作成しましょう。
まとめ
あとは保管するのみ
自筆遺言書の作成が終わったら、あとは遺言書を大切に保管するだけです。
自筆遺言書の保管について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
遺言書はとにかく正しく書かなければ意味がない
遺言書の作成には、自筆証書遺言や公正証書遺言といった複数の形式があり、それぞれに法律で定められた厳密な書き方が存在します。
この法的な規定を遵守することは、遺言書の有効性を保証する上で極めて重要な事です。
もし遺言書に書式上の誤りや不備がある場合、その遺言書は法的な効力を失い、無効と判断されることがあります。
このような事態を避けるためには、自筆証書遺言の正しく書く方法を理解し、適切に遺言書を作成することが求められます。
しかし、法的な効力を有する正確な遺言書を作成することがご希望であれば、遺言書作成の専門家である司法書士などに相談することをおすすめいたします。
関連リンク
政府広報:知っておきたい遺言書のこと 無効にならないための書き方、残し方
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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