おしどり贈与(夫婦間贈与)
最終更新日:2026/07/27
【司法書士が解説】おしどり贈与(夫婦間贈与)の特例とは?要件から実務上の落とし穴・相談事例まで徹底解説
はじめに
長年連れ添った配偶者に自宅を残す「おしどり贈与」
「自分が亡くなった後、妻(夫)が住む場所に困らないように、自宅の名義を生前のうちに変更しておきたい」
長年連れ添ったご夫婦から、当事務所にこのようなご相談が数多く寄せられます。
その際に活用を検討するのが、夫婦間の居住用不動産の贈与の特例(通称:おしどり贈与の特例)です。
非常に強力な非課税枠を持つ特例ですが、単に「税金がかからないからお得」と飛びついてしまうと、あとで高額な諸経費の支払いに驚くという落とし穴も潜んでいます。
この記事では、生前贈与や不動産登記の専門家である司法書士の視点から、特例の基本的な要件だけでなく、実務上つまずきやすいポイントや、実際の相談事例を交えて「本当に最適な制度なのか」を分かりやすく解説します。
1. おしどり贈与(夫婦間の居住用不動産の贈与の特例)の基本と要件
おしどり贈与とは、一定の条件を満たした夫婦間で「居住用の不動産」または「それを取得するための資金」を贈与した場合、基礎控除の110万円に加えて、最高2,000万円まで(合計2,110万円まで)贈与税が非課税になる制度です。
通常、2,000万円の不動産を妻へ贈与した場合、数百万円単位の重い贈与税が課せられますが、この特例を使えば贈与税をゼロに抑えることが可能になります。
特例を受けるための4つの絶対要件
この特例を利用するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
1. 婚姻期間が20年以上であること
※事実婚(内縁関係)は対象外です。法律上の婚姻期間で計算します。
2. 居住用不動産の贈与、または取得資金の贈与であること
※別荘や投資用物件は対象外。国内の居住用不動産に限られます。
3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに実際に住んでおり、その後も住み続ける見込みであること
4. 同じ配偶者からの贈与で、過去にこの特例を利用していないこと
※この特例は、同じ配偶者間において「一生に一度」しか使えません。
▶︎参考リンク:国税庁|夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの特例
▶︎あわせて読みたい:生前贈与 贈与の種類まとめ一覧
2. 実務上つまずきやすい!司法書士が教える「3つの落とし穴」
おしどり贈与は「贈与税が非課税になる」というメリットばかりが強調されがちですが、不動産の名義変更手続きを専門とする司法書士の立場から見ると、必ずしもすべての方におすすめできるわけではないというのが本音です。
ここでは、実務で皆様が驚かれる「3つの落とし穴」を解説します。
落とし穴①:登録免許税と不動産取得税が「割高」になる
最も見落としがちなのが、贈与税以外の「不動産を名義変更するための税金」です。
実は、亡くなった後に相続で名義変更をする場合と比べて、生前贈与で名義変更をする方が、名義変更にかかる税金が非常に高くなります。
| 税金の種類 | 相続で受け取る場合(死後) | おしどり贈与で受け取る場合(生前) |
|---|---|---|
| 登録免許税 (法務局で払う税金) | 固定資産税評価額の 0.4% | 固定資産税評価額の 2.0%(相続の5倍) |
| 不動産取得税 (都道府県に払う税金) | かからない(非課税) | かかる(評価額の原則3% ※軽減措置あり) |
【具体例:固定資産税評価額2,000万円の土地を妻に渡す場合】
✅相続の場合:登録免許税 8万円 + 不動産取得税 0円 = 約8万円
✅贈与の場合:登録免許税 40万円 + 不動産取得税 約数十万円 = 約70万円以上
このように、「贈与税はゼロになったけれど、名義変更の税金と司法書士費用で手出しが数十万円かかってしまった」と後悔するケースが実務上頻発します。
参考リンク:国税庁|登録免許税の税額表
落とし穴②:「配偶者の税額軽減」を使えば、そもそも相続税はかからない?
「将来の相続税対策としておしどり贈与をしたい」とお考えの方も多いですが、日本の相続税法には配偶者の税額軽減という強力な制度があります。
これは、配偶者が相続する財産が「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多い金額までであれば、相続税が一切かからないというものです。
つまり、ご夫婦の総資産がこの枠内に収まる一般的なご家庭であれば、わざわざ高い登録免許税を払って生前に贈与しなくても、死後の相続で名義変更した方がトータルコストは圧倒的に安く済みます。
落とし穴③:非課税でも「贈与税の申告」は絶対に必要
「非課税の枠内(2,110万円以下)に収まったから、税務署には何も言わなくていい」と勘違いされる方が非常に多いです。
おしどり贈与の特例を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日の間に、必ず税務署へ贈与税の申告書を提出しなければなりません。
この申告を忘れると特例が適用されず、後から高額な贈与税と無申告加算税が請求されるという最悪の事態になります。
3. 司法書士事務所センスの「よくあるご相談事例」
当事務所に実際に寄せられたご相談の中から、対照的な2つの事例をご紹介します。
専門家がどのように状況を分析し、アドバイスをしているかの参考にしてください。
事例A:「税金より、妻の安心を優先したい」(心情面重視のケース)
【ご相談者】
70代男性(妻と二人暮らし・資産は自宅不動産のみ)
【ご相談内容】
「自分に万が一のことがあった時、妻が住む家を失わないか不安。今のうちに妻の単独名義に変えてあげたい」
【当事務所の対応】
資産状況を拝見すると、相続税の基礎控除内であり、将来相続が発生しても相続税はかからない状況でした。そのため、前述の「落とし穴①」をご説明し、コスト面だけを考えれば遺言書を作成して死後に相続させる方が安く済むとお伝えしました。
しかし、夫は「数十万円の費用がかかっても、自分が元気なうちに『妻の持ち物』にしてあげて、妻を安心させたい」と強くご希望されました。
生前贈与には、数字では測れない「安心感」という大きな価値があります。
ご納得いただいた上で、当事務所で不動産の贈与契約書を作成し、名義変更の手続きを完了させました。
奥様にも大変喜んでいただけました。
事例B:相続税の「持ち戻し免除」を活用する(本格的な節税ケース)
【ご相談者】
80代男性(資産が数億円規模)
【ご相談内容】
「将来の相続税がかなり高額になりそうなので、少しでも財産を減らしておきたい」
【当事務所の対応】
富裕層の方にとって、おしどり贈与は非常に有効な「相続税対策」になります。
実は2024年の税制改正により、亡くなる前に行われた生前贈与は、原則として過去7年分(以前は3年分)が相続財産に加算(持ち戻し)されて相続税の対象になるという厳しいルールに変更されました。
しかし、おしどり贈与の特例を利用した最大2,000万円分については、この「持ち戻し」が免除されるという特別な恩恵があります。
つまり、亡くなる直前であったとしても、確実に2,000万円分の財産を相続財産から切り離し、全体の相続税を大きく引き下げることができるのです。提携する税理士と連携し、トータルで最も節税になるプランを実行しました。
▶︎あわせて読みたい:相続税・贈与税改正のポイントと申告の仕組み
4. 結局、おしどり贈与はやるべき?おすすめな人とそうでない人
ここまでの内容を踏まえ、おしどり贈与を積極的に検討すべき人と、遺言書の作成など別のアプローチを取ったほうが良い人をまとめました。
【おしどり贈与をおすすめしたい人】
✅ 資産が多く、将来確実に相続税がかかる見込みの方(相続財産を減らしたい方)
✅費用(登録免許税や不動産取得税)がかかってでも、配偶者に確実な安心感を与えたい方
✅ 将来、他の相続人(前妻の子供や兄弟姉妹など)と遺産分割でトラブルになる可能性が高く、自宅だけは確実に配偶者のものとして守り抜きたい方
【遺言書や死後の相続をおすすめする人】
✅ご夫婦の総資産が「基礎控除」の範囲内で、相続税がかからない方
✅名義変更にかかるトータルの出費(数十万円の税金・実費)をできるだけ抑えたい方
(※この場合は、「全財産を配偶者に相続させる」という公正証書遺言を作成しておくことで、トラブルを回避しつつコストも抑えることができます。)
▶︎あわせて読みたい:公正証書遺言の手続き方法と作成例について全て解説
5. 手続きの流れと司法書士に依頼するメリット
おしどり贈与を決断した場合、手続きは以下の順序で進みます。専門的な書類の作成から登記まで、司法書士にお任せいただくことでスムーズに完了します。
①要件の確認と費用シミュレーション
初回相談
まずは「婚姻期間20年」の要件を満たしているか、対象の不動産の評価額はいくらかを確認し、登録免許税などの実費と当事務所の報酬を含めたお見積りをご提示します。
参考リンク
この記事を書いた専門家
- 司法書士事務所センス 代表
-
【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。
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