公正証書遺言の手続き方法と作成例について全て解説
最終更新日:2024/11/12
目次
公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは、法律のプロである公証人が遺言者の口述をもとに遺言書を作成し、その原本を公証役場に保管するものです。
もっとも安全で確実な遺言書といえるでしょう。
遺言者は遺言の内容を公証人に伝えるだけで、あとは公証人が法的にきちんと整理された遺言を作成してくれめす。
その際には、公証役場へ出向く必要があり、2名以上の証人立会いも必要です。
公証人が作成した遺言書に、遺言者、証人、公証人が署名押印すれば、公正証書として認められます。
外出できない人のために公証人が出張する事も可能
病気で歩けなかったり字が書けない人でも公正証書遺言で遺言を残す事ができます。公証人に自宅や病院、介護施設まで出張してもらい、病床で作成できます。
このように公正証書遺言はそれなりに費用がかかってしまいますが、メリットがたくさんあります。
公正証書遺言は一度作った後に取り消し出来るの?
公正証書遺言を取り消したい場合、正本や謄本を破棄するだけでは撤回したことにはならないため、公証役場での手続きが必要です。方法としては以下の2つの方法があります。
公証役場で撤回の申述を行う
公証人の前で遺言を撤回する旨を申述し、撤回証書を作成します。この場合、手数料は11,000円です。
新たな遺言書を作成する
新しい遺言書を作成し、その中で以前の遺言を撤回する旨を明記することで、古い遺言を無効にすることができます。
公正証書遺言を作成する為の3つの準備
① 遺言の内容を決めておく
まずは、遺言したい内容を整理してメモしておきましょう。
公証人は遺言者の希望通りの遺言になるように法的な観点からいろいろアドバイスや意見をくれますが、その基本となる遺言の方針は遺言者自身が決めるものですので、しっかりと自分の考えを整理しておきましょう。
② 2名以上の証人を決めておく
公正証書遺言の作成には2名以上の証人が立ち会う必要があります。
証人には遺言の内容が知られる事になりますので、きちんと信頼でき、適任だと思う人に打診しておきましょう。
しかし誰でも証人になれるわけではなく、以下の人は証人になれません。
証人になれない人
①未成年
法律的な判断能力が不十分と見なされるためなれません。
未成年者は、法律行為を行う際に親などの法定代理人の同意が必要なため、独立して証人としての役割を果たすことができません。
②推定相続人、受遺者、これらの配偶者および直系血族
遺言者と利害関係があるためなれません。
これらの人々は遺言の内容に直接的な利益を持つ可能性があり、遺言の公正さが保てないためです。
③公証人の配偶者、4親等内の親族、公証役場の書記や使用人
公正さと秘密保持を確保するためなれません。 公証人の配偶者や4親等内の親族は公証人と密接な関係にあり、遺言の内容に影響を与える可能性があるため、公正さが保てないと考えられています。
また、公証役場の書記や使用人は公証人の指示のもとで働いており、独立した立場で証人としての役割を果たすことが難しいです。
もし頼める証人がいない場合はどうする?
もし知り合いに証人になれそうな人が見つからない時は司法書士や弁護士、行政書士などの専門家に依頼する方法もあります。
また公証役場でも証人の手配を依頼できます。
③ 公証役場の予約をする
遺言の方向性と2名以上の証人が決まったら最寄りの公証役場で手続きを行いますが、事前予約が必要です。
※最寄りの公証役場はこちらから探せます。
予約は電話で行い、遺言作成の目的や大まかな内容、証人の有無などを伝え、作成予定日を決めます。
自宅などに出張してもらう場合は管轄区域が決まっているので前もって確認しましょう。
また、電話予約の時に提出すべき書類についても確認しておくとスムーズです。
公証人と打ち合わせをする
公証役場の予約の日がきたら、公証人との打ち合わせに入ります。打ち合わせは遺言の内容により、だいたいは数回程度行います。
打ち合わせの時に持ってくものは?
遺言者の印鑑証明書
遺言者と相続人の続柄が証明できる戸籍謄本
相続人以外の人に寄贈する場合はその人の住民票
財産に不動産がある場合は登記事項証明書と固定資産評価証明書
証人になる人の氏名、住所、生年月日、職業を書いたメモ
その他公証人から指定されたもの
何回も公証役場へ通うの?
打ち合わせのたびに公証役場に必ずしも通わなくても大丈夫です。
電話やFAXなどでやりとりしながら遺言の文案を作成します。
公証人が関わっているので形式不備の心配はいりませんが連絡ミスなどから内容に食い違いがでる可能性があります。
なので、こちらも内容を十分にチェックしておきましょう。
遺言当日
文案のチェックが終了したら、公証人と遺言当日(公正証書遺言の作成日)を決めます。
証人にはその日に初めて同行してもらいます。
遺言当日に持っていくものは?
遺言者の持ち物
実印(印鑑証明書と一致するもの)
公的な身分証明書(免許証やパスパート、マイナンバーカードなど)
手数料の現金公証人手数料を支払うための現金(事前に公証役場から通知された額)
証人の持ち物
認印(シャチハタ不可)
公的な身分証明書(免許証やパスパート、マイナンバーカードなど)
遺言当日は何するの?
当日は形式的な手順を踏むだけですので、あまり時間はかかりません。
公証人が筆記内容を読み上げそれを遺言者と証人が確認したら、署名捺印をします。
最後に公証人が署名捺印すれば公正証書遺言の完成です。
公正証書遺言の作成にはいくら掛かるのか
証書の作成手数料
公証人が遺言書を作成する際にかかる費用です。この手数料は、遺言の目的となる財産の価額に応じて決まります。
財産の価格 | 金額 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
200万円超〜500万円以下 | 11,000円 |
500万円超〜1,000万万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超〜3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超〜5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超〜1億円以下 | 43,000円 |
1億円超3億円以下の部分 | 5,000万円ごとに1.3万円を加算 |
3億円超10億円以下の部分 | 5,000万円ごとに1.1万円を加算 |
3億円超10億円以下の部分 | 5,000万円ごとに8,000円を加算 |
遺言加算手数料
11,000円
遺言書の作成にかかる基本手数料に追加される費用で、全体の財産が1億円以下の場合に加算します。
遺言を取り消す証書の作成手数料
11,000円(財産の価格に応じた手数料額の半額が11,000円を下回る時はその金額)
公正証書遺言の取り消し証書の作成手数料は、遺言を撤回するために公証人が作成する証書にかかる費用です。
もし公証人が病院や自宅に出張して作成する場合は、基本手数料の50%が加算され、さらに日当や交通費もかかります
役場外執務
公証人が公証役場の外で遺言書を作成する際にかかる費用で、公証人が病院や自宅などに出張して遺言書を作成する際に適用されます。
病床執行手数料 | 通常の作成手数料の2分の1を加算 |
---|---|
日当 | 1日2万円(4時間以内1万円) |
旅費 | 実費全て |
証書(原本)が、4枚を超える場合の加算手数料
250円(超過1枚ごと)
原本が4枚以内であれば、この加算手数料はかかりません。また、原本は公証役場で保管します。
正本、謄本の交付
250円(1枚につき)
正本とは
公正証書遺言の原本と同じ効力を持つ書類です。
原本は公証役場に保管され、外に持ち出すことができないため、相続手続きなどで使用するために正本が交付されます。
謄本とは
原本の写しですが、正本とは異なり法的効力はありません。
遺言の内容を確認するための資料として使われます。
正本は相続手続きなどの法的な場面で使用され、謄本は内容確認のために使われることが多いです。
手数料の例
相続人3人の相続額をそれぞれ以下の金額とする場合
Aさん 相続3500万円 作成手数料 |
29,000円 |
---|---|
Bさん 相続1700万円 作成手数料 |
23,000円 |
Cさん 相続1700万円 作成手数料 |
23,000円 |
遺言加算手数料 | 11,000円 |
合計 | 86,000万円 |
※その他に正本、謄本の交付手数料がかかります
公正証書遺言の作成手順 まとめ
遺言の原案を考える
誰に、どの財産を、どれだけ相続させるのかあらかじめ決めておきましょう 。
証人を決める
証人を2人以上決めましょう。
※推定相続人、未成年者、公証人の配偶者・四親等以内の親族、書記および使用人などは証人の資格がありません。
公証役場へ出向く日時を決める
最寄りの公証役場に電話予約し、出向けない場合出張してもらうことも可能です。
必要な書類を集める
-
- 遺言者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
- 戸籍謄本(遺言者と相続人との続柄がわかるもの)
- 住民票(相続人以外の人に遺贈する場合)
- 法人の登記簿謄本(会社等の法人に遺贈する場合)
- 財産特定のための不動産の登記簿謄本と固定資産評価証明書
- 預金通帳のコピー
- 証人の住民票
公証役場へ出向いて依頼、打合せ
打ち合わせを何度か行い、遺言の原案を作成します。
証書(遺言書)の文案のチェック
遺言当日に証書の文案が作成されるので、間違いがないかどうか内容をチェックしておきましょう。
遺言当日 証人と一緒に公証役場へ出向く
遺言者は公的身分証明書と実印、証人は公的身分証明書と認印を持参します。
公証役場で証書を作成する
① 遺言者が遺言内容を口述しながら公証人が筆記を行います。
② 公証人が内容を遺言者と証人に読み聞かせます。
③ 遺言者と承認が署名捺印します。
④ 公証人が署名捺印したら証書の完成です。
公正証書遺言の作成事例
令和〇〇年 第〇〇〇〇号
遺言公正証書
本交渉人は遺言者鈴木太郎の⚫️⚫️により、証人佐藤太郎、同田中太郎の立ち会いのもとに、遺言者の口述を筆記して、この証書を作成する。
- 1 遺言者は、長男鈴木一郎に〇〇銀行〇〇支店の遺言者名義普通預金全部を相続させる。
- 2 遺言者は妻鈴木花子に1を除く遺産の全部を相続させる。
- 3 この遺言の執行者として東京都練馬区豊玉北五丁目三十二番八号五〇三司法書士鈴木喜勝を指定する。
- 本旨外案件
- 東京都練馬区〇〇一丁目二番三号
- 無職
- 遺言者 鈴木太郎
- 昭和〇〇年〇〇月〇〇日生上記は、印鑑登録により人違いでないことを証明させた。
- 東京都足立区〇〇一丁目二番三号
- 会社員 証人 佐藤太郎
- 昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
- 東京都板橋区〇〇一丁目二番三号
- 無職
- 証人 田中太郎
- 昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
上記のとおり、遺言者および証人に読み聞かせたところ、各自筆記の正確なことを承認し、それぞれ署名捺印する。
鈴木太郎
佐藤太郎
田中太郎
この証書は、民法第九六九条第一号ないし第四号の葬 方式に従って作成し、同条第五条に基づき本公証人が下に署名捺印する。
- 令和〇〇年5月15日
- 本職役場において
- 東京都練馬区豊玉北五丁目十七番十二号 練馬駅前ビル三階
- 東京法務局所属
公証人 山田 一二三
作成された証書は公証役場で保管
作成された原本は、原則20年間公証役場に保管されます。
20年間の期間が過ぎた後でも特別の事由により保管の必要がある場合は(その事由がある間)原本は保管されます。
実務の対応としては、20年が過ぎた後でも原本を保管しているのが通常です。
事前に公証役場に確認しておくのがよいでしょう。
まとめ 公正証書遺言をおすすめする理由
公正証書遺言をお勧めする理由は、紛失、偽造を防止できることと、法的に間違いのないものが作成できることです。
また、公正証書遺言は、日本公証人連合会が運営する検索システムに登録され、全国どこの公証役場でも検索でき、遺言公正証書の有無は容易に確認できるようになっています。
遺言者の生前は、公正証書遺言の閲覧、謄本の請求は、遺言者本人以外はできません。
自筆遺言書と比べると作成には少し時間がかかりますが、遺言者が亡くなった時に家庭裁判所の検認がいらないので、相続開始後の手続きがずっとスムーズになります。
公正証書遺言をご検討されてる方はぜひ一度相続専門の当事務所にご相談ください。
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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