生前贈与の失敗事例
最終更新日:2026/10/16
生前贈与の失敗事例7選|贈与税・不動産の名義変更・相続トラブルを防ぐ方法
生前贈与は、親から子へ、祖父母から孫へ、あるいは夫婦間で財産を引き継ぐための方法です。生前に財産を移転することで、将来の相続に備えたり、財産を渡したい相手を明確にしたりすることができます。
しかし、生前贈与は、方法を間違えると「思っていたより税金が高くなった」「贈与したはずなのに認められなかった」「不動産の名義を変更した結果、家族間で争いになった」といった問題につながることがあります。
特に注意したいのは、贈与税だけを考えて手続きを進めてしまうことです。不動産を贈与する場合には、登録免許税や不動産取得税、将来の相続税、贈与後の生活資金なども検討しなければなりません。
この記事では、練馬区の司法書士事務所センスが、生前贈与で起こりやすい失敗事例を7つ紹介します。制度の説明だけでなく、実務上つまずきやすいポイントや、失敗を防ぐための具体的な対策も解説します。
※以下の事例は、生前贈与で問題になりやすいケースをもとに一般化した例です。特定の依頼者の実際の相談内容をそのまま掲載したものではありません。
失敗事例1:年間110万円の非課税枠を正しく理解していなかった
事例
毎年100万円を贈与していたのに、別の贈与も合算すると110万円を超えていた
田中さんは、将来の相続税対策として、長男に毎年100万円ずつ贈与することにしました。年間110万円以下なら贈与税がかからないと聞いていたため、問題はないと考えていました。
ところが、同じ年に祖父母からも長男へ贈与が行われていました。すべての贈与額を合計すると110万円を超えており、贈与税の申告が必要になる可能性があることがわかりました。
✅なぜ失敗したのか?
暦年課税の基礎控除110万円は、贈与する人ごとではなく、贈与を受ける人ごとに適用されます。
例えば、1年間に父親から100万円、祖父から50万円の贈与を受けた場合、合計は150万円です。ほかに考慮すべき事項がなければ、基礎控除110万円を差し引いた40万円が贈与税の計算対象になります。
「父親から110万円以下しか受け取っていないから大丈夫」と判断するのは危険です。
💡失敗を防ぐ方法
贈与を受ける人を基準に、1年間に受け取った財産の総額を確認しましょう。現金だけでなく、不動産や有価証券などを贈与する場合も、税務上の評価を確認する必要があります。
また、贈与税の申告が必要かどうかは、利用する制度や特例によっても異なります。贈与額だけで判断せず、制度の適用要件を確認することが大切です。
詳しくは、国税庁の「贈与税がかかる場合」をご覧ください。
関連ページ:暦年贈与と連年贈与
失敗事例2:毎年の贈与を形式的に行い、贈与の実態が不明確だった
事例
子ども名義の口座にお金を振り込んでいたが、親が通帳を管理していた
佐藤さんは、将来の相続に備えて、毎年子ども名義の銀行口座にお金を振り込んでいました。口座名義は子どもになっていたため、贈与の手続きは済んでいると思っていました。
しかし、通帳やキャッシュカードは佐藤さんが管理しており、子どもは口座の存在や預金額を十分に把握していませんでした。
このような場合、口座の名義だけで贈与が成立していると判断できるわけではありません。贈与の合意や財産の管理状況など、実態を確認する必要があります。
✅なぜ失敗したのか?
贈与は、贈与する側と受け取る側の合意によって成立する契約です。子ども名義の口座にお金を移しただけで、必ずしも贈与が成立したと認められるとは限りません。
親が通帳や印鑑を管理し、子どもが自由に預金を使えない場合などには、実質的に親の財産である「名義預金」と判断される可能性があります。
💡失敗を防ぐ方法
- ✅贈与する側と受け取る側で、贈与の内容を明確にする
- ✅贈与の都度、必要に応じて贈与契約書を作成する
- ✅振込記録など、財産が移転したことを示す資料を保管する
- ✅受贈者本人が財産の存在を認識し、適切に管理できる状態にする
なお、毎年同じ金額を贈与したという事実だけで、直ちに定期贈与と判断されるわけではありません。最初から一定期間にわたって財産を渡す契約が成立していたかなど、実際の合意内容が重要です。
実務上のポイントは、書類を作ることだけではなく、贈与の実態を伴わせることです。
失敗事例3:相続時精算課税制度を十分に理解せずに選択した
事例
2,500万円まで非課税になると聞いて、まとまった財産を贈与した
鈴木さんは、子どもにまとまった財産を早めに引き継ぐため、相続時精算課税制度を利用することにしました。2,500万円まで贈与税がかからないと聞き、相続税への影響を十分に検討しないまま手続きを進めました。
その後、相続時精算課税制度では、贈与した財産が将来の相続税の計算に関係することを知りました。
✅なぜ失敗したのか?
相続時精算課税制度は、一定の要件を満たす場合に選択できる制度です。累計2,500万円の特別控除が設けられていますが、これは2,500万円までの財産が相続税も含めて永久に非課税になるという意味ではありません。
また、2024年1月1日以後の贈与では、この制度に年間110万円の基礎控除も設けられています。
相続時精算課税を選択すると、原則として、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことはできません。制度を選択する前に、将来の相続税まで考慮する必要があります。
💡失敗を防ぐ方法
制度を選ぶ前に、贈与する人の年齢、受贈者との関係、贈与する財産の種類や金額、将来の相続財産の見込みなどを確認しましょう。
相続時精算課税制度が有利かどうかは、家庭ごとの財産状況によって異なります。税額の具体的な試算は税理士に相談し、贈与契約や不動産登記については司法書士に相談するなど、専門家を適切に使い分けることが大切です。
関連ページ:相続時精算課税制度
失敗事例4:不動産を生前贈与した結果、想定以上の費用がかかった
事例
贈与税がかからないと思っていたのに、登記費用などが発生した
高橋さんは、父親から土地と建物を生前贈与してもらうことにしました。贈与税の基礎控除や特例について調べ、税金がかからないと考えていました。
しかし、実際に名義変更を進めると、登録免許税や不動産取得税、登記手続きを依頼する費用などが必要になることがわかりました。
✅なぜ失敗したのか?
不動産の贈与では、贈与税だけでなく、複数の費用を検討する必要があります。
例えば、贈与による所有権移転登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の2%です。固定資産税評価額が2,000万円の場合、単純計算では登録免許税は40万円になります。
これに加えて、不動産取得税や司法書士報酬などがかかる場合があります。
また、相続によって不動産を取得する場合と、生前贈与によって取得する場合では、登録免許税などの取扱いが異なります。
💡失敗を防ぐ方法
贈与を決める前に、不動産の固定資産税評価額や登記事項を確認し、必要な費用を見積もりましょう。
土地だけを贈与するのか、建物も贈与するのか、所有権の全部を移すのか、持分の一部だけを移すのかによっても、手続きの内容は変わります。
司法書士に相談する際は、登記費用だけでなく、贈与後の権利関係や将来の相続への影響も確認しておくと安心です。
失敗事例5:住宅取得等資金の贈与税の非課税特例を利用できなかった
事例
親から住宅購入資金を受け取ったが、特例の要件を満たしていなかった
山田さんは、マイホームを購入する際、親から住宅取得資金の援助を受けました。住宅取得資金の贈与には非課税特例があると聞いていたため、贈与税はかからないと思っていました。
ところが、受贈者の所得や住宅の要件、資金の使い道、入居時期など、細かな適用条件があることを後から知りました。
✅なぜ失敗したのか?
住宅取得等資金の贈与税の非課税特例は、親や祖父母などから住宅取得等のための資金を受け取った場合に、一定の要件のもとで適用される制度です。
非課税限度額は住宅の性能などによって異なり、受贈者の年齢や所得、住宅の床面積、資金の使い道、居住開始時期などにも条件があります。
また、特例を利用するために贈与税の申告が必要となる場合があります。非課税だから申告しなくてよいと判断してしまうと、特例を適用できないおそれがあります。
💡失敗を防ぐ方法
贈与を受ける前に、対象となる住宅や受贈者の要件を確認しましょう。住宅の売買契約や建築スケジュールも含めて、資金を受け取る時期を検討することが重要です。
制度の適用条件や期限は改正されることがあるため、最新の公的情報を確認してください。
関連ページ:住宅取得資金の特例
失敗事例6:贈与税の申告期限を見落としてしまった
事例
特例を使えると思っていたが、申告手続きをしていなかった
子どもの住宅購入を援助するために資金を贈与した中村さんは、非課税特例を利用できると思い、申告の必要性を十分に確認していませんでした。
翌年になってから、特例を利用するためには期限内の申告が必要となることを知りました。
✅なぜ失敗したのか?
贈与税の申告が必要な場合、原則として、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに申告・納税を行います。
特例によっては、税額がゼロになる場合でも、適用を受けるために申告が必要です。申告をしなかったことで、想定していた特例が適用されない可能性があります。
💡失敗を防ぐ方法
贈与を受けた年のうちに、贈与額や適用する制度を整理し、翌年の申告期限を確認しておきましょう。
特に、住宅取得資金の非課税特例や相続時精算課税制度などを利用する場合は、申告要件や必要書類を早めに確認することが重要です。
贈与税の申告や税額計算に不安がある場合は、税理士や税務署に確認しましょう。
参考:国税庁「贈与税の申告と納税」
失敗事例7:相続トラブルを防ぐつもりの贈与が、家族間の争いにつながった
事例
長男に自宅を贈与したところ、ほかの相続人から不満が出た
父親が将来の相続を考え、同居している長男に自宅を生前贈与したケースです。父親としては、介護や生活の支援をしてくれている長男に財産を引き継ぎたいと考えていました。
しかし、ほかの子どもたちは、長男だけが多くの財産を受け取ったことに不満を感じ、父親が亡くなった後の遺産分割で意見が対立しました。
✅なぜ失敗したのか?
生前贈与は、財産を渡したい相手を生前に決められる一方、ほかの相続人との関係まで自動的に整理できるわけではありません。
贈与した財産が特別受益に該当するか、遺留分に関係するかなど、相続開始後に問題になることがあります。
また、贈与した本人の意思や判断能力が争点になるケースもあります。
💡失敗を防ぐ方法
生前贈与を行う際は、財産を渡す理由や贈与後の生活資金、ほかの相続人との関係を整理しましょう。
必要に応じて遺言書も作成し、誰に何を引き継ぎたいのかを明確にしておくことが大切です。ただし、遺言書を作成すればすべての争いを防げるわけではないため、遺留分なども含めて検討する必要があります。
関連ページ:生前贈与のよくある質問
司法書士が考える、生前贈与でつまずきやすい3つのポイント
1. 贈与を実行すること自体が目的になっている
「相続税対策として早く贈与したい」という気持ちが先行し、贈与後の生活や費用を十分に確認していないケースがあります。
しかし、贈与した財産は原則として受贈者の財産になります。自宅を贈与した後も安心して住み続けられるか、老後の生活費や介護費用が確保できているかを確認することが重要です。
2. 不動産の登記内容を確認していない
不動産の贈与では、登記簿上の所有者や持分、住所・氏名の変更の有無などを確認する必要があります。
登記上の住所と現在の住所が異なる場合など、贈与による所有権移転登記の前に別の登記手続きが必要となることもあります。
贈与契約書の内容と登記申請の内容が一致しているかを確認し、将来の売却や相続に支障が生じないようにしましょう。
3. 税金の問題と法律上の手続きを混同している
贈与税がかからないことと、贈与契約や不動産登記の手続きが適切に完了していることは別の問題です。
税務上の特例を利用できても、契約内容が不明確だったり、登記に必要な書類が不足していたりすれば、別途対応が必要になります。
税金については税理士などに相談し、贈与契約や登記については司法書士に相談するなど、問題に応じて専門家を活用することをおすすめします。
生前贈与の失敗を防ぐためのチェックリスト
生前贈与を実行する前に、次の項目を確認しましょう。
- ✅贈与する財産と受贈者が明確になっている
- ✅贈与する側と受け取る側の合意がある
- ✅贈与税の基礎控除や特例の要件を確認している
- ✅贈与税の申告が必要か確認している
- ✅不動産の場合、登録免許税や不動産取得税などを見積もっている
- ✅贈与後の生活資金や住まいを確保できている
- ✅ほかの相続人や将来の遺産分割への影響を検討している
- ✅必要に応じて遺言書などの相続対策も検討している
すべての項目を一人で判断する必要はありません。わからない点がある場合は、贈与を実行する前に専門家へ相談することで、後から発生する問題を防ぎやすくなります。
生前贈与のご相談は司法書士事務所センスへ
生前贈与は、財産を希望する相手へ引き継ぐための有効な方法ですが、贈与税や不動産の名義変更、将来の相続など、事前に検討すべき事項が数多くあります。
特に不動産の贈与では、名義変更の費用だけでなく、贈与後の権利関係や相続への影響も考慮する必要があります。
司法書士事務所センスでは、相続や生前対策、不動産登記に関するご相談をお受けしています。
- ✅生前贈与を進めるべきか、相続まで待つべきか迷っている
- ✅不動産の贈与や名義変更に必要な手続きを知りたい
- ✅贈与契約書の作成について相談したい
- ✅将来の相続トラブルを防ぐために準備したい
このようなお悩みがある方は、早めに専門家へご相談ください。
生前贈与は、実行した後に修正するよりも、実行する前に問題点を確認することが大切です。 ご家族の状況や財産の内容に応じて、適切な方法を検討しましょう。
※本記事は一般的な制度の説明を目的としています。実際の税額や特例の適用可否は個別の事情によって異なります。税務上の判断や申告については税理士または税務署にご確認ください。
この記事を書いた専門家
- 司法書士事務所センス 代表
-
【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。
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