相続税の納税資金の考慮
最終更新日:2024/06/05
相続税の納税資金の考慮
相続税の納税資金を考慮する際に、無理な借金によって貸しマンションやアパートを建築し、財産評価額を下げる方法が一般的でした。
具体的には、借入れによって不動産を建設し、その不動産の価値から借入れ金を差し引くことで、納税時の財産評価を減少させるのです。
しかし、この方法にはリスクが伴い、借金の金利上昇や空室、老朽化、賃貸市場価値の変動といった賃貸経営の問題があります。
そのため、財産評価額を下げる代わりに、納税資金に換価できる資産や不動産を用意することが重要課題となってくるのです。
生前から換金性の高い資産を準備し、相続発生後に直ちに換金できるようにすることで、相続税をすぐに納付することができます。
特に換金しにくい不動産を換金しやすい資産に代えておくことが効果的です。
例えば、すぐに売却できる更地を持っておくことや、有効な活用方法を検討することが挙げられます。
遺言書でも相続税対策を
遺言書には、相続税課税時点で納税義務者(特に配偶者など)に換金性の高い資金が分配されるような配慮を記載しておくことが重要です。
相続税を納付するための資金準備を急ぐ必要がある場合もありますので、注意が必要です。
換金性の高い資産でも、土地取引には時間がかかることが多く、譲渡所得税などの問題も発生します。
物納という方法もある
相続税の納付を困難とする金額を限度として、一定の相続財産を物で納付する方法もあります。
これを相続税の物納といい、物納する場合も物件自体が以下の物納要件を満たしている必要があり、認可手続きにも時間がかかります。
物納の条件
延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在する次の財産および順位となること
第1順位
不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
第2順位
非上場株式等
第3順位
動産
物納に充てることができる財産は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当しないものであることおよび物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
参照: 国税庁 相続税の物納
相続税の納付期限を過ぎると滞納税がかかる
納付期限を過ぎてしまった場合、滞納税が別途課せられることもあるため、相続税の納税のための資金準備を慎重に行うことが大切です。
納税資金が足りない場合の短期的は対策一覧
いくつかの納税資金対策をご紹介します。
ただし、先に申し上げましたように、リスクが絡むものもありますので注意が必要です。
短期的なものとしては、以下の方法があります。
1 銀行から借入する
金融資産の割合が低い場合
相続税は現金で一括納付が原則ですが、相続財産の大半が不動産などの実物資産で、現預金や上場株式などの金融資産の割合が低い場合、納税資金が不足することがあります。
低い利率で融資を受けられる可能性
銀行から融資を受ける際、利子を支払う必要がありますが、延納の利子税よりも利率が低いことが多いため、有利になる可能性があります。
不動産を売却したくない場合
相続した不動産を売却したくない場合、銀行融資を検討することで納税資金を確保できます。
ただし、融資を受ける際には担保や保証人が必要であり、審査期間も考慮する必要があります。
相続税の納税資金が不足している場合は、金融機関に相談して適切な方法を検討することをお勧めします。
2 死亡退職金・弔慰金を活用する
死亡退職金と弔慰金は、相続税の対象となる死亡退職金とは異なり、一定の金額を超えなければ支給される側の遺族に対して課税されません。具体的な理由は以下の通りです。
死亡退職金の非課税枠を活用
死亡退職金は、被相続人が亡くなった時点での財産に課税されるため、相続税の課税対象となります。
しかし、一定の非課税枠が設けられており、その範囲内であれば非課税とされます。
弔慰金は、相続税の課税対象外であり、遺族の節税を助けてくれます。
弔慰金の名目で節税
弔慰金は、社会通念上、相当な金額であると認められるため、全額非課税となります。
弔慰金を名目としながら、実質的に死亡退職金として支給することで、節税効果を得ることができます。
税務署とのトラブルが少ない
弔慰金は、行き過ぎた税金逃れの保険加入をしない限り、税務上の問題は起こりません。
死亡退職金と弔慰金の適切な取扱いを確保するため、顧問税理士と相談することが重要です。
以上の理由から、死亡退職金と弔慰金を適切に活用することで、相続税の負担を軽減する事ができます。
3 相続資産を売却する
相続税の納税資金が不足する場合、相続した資産を売却することは一つの有効な対策です。
相続資産を売却する理由とそのメリットは以下の通りです。
固定資産税の軽減
不動産を所有していると、毎年1月1日時点で課税される固定資産税が発生します。
相続した土地を売却することで、固定資産税の支払いを回避できます。
譲渡所得税の特例を利用
相続した土地を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税がかかります。
特例を利用することで、相続税額の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。
相続トラブルを回避
不動産を共有名義で相続する場合、後々トラブルの原因となる可能性が高いです。
早めに売却して現金化し、相続人で分け合うことでトラブルを避けられます。
維持費の削減
不動産は保有するだけでも固定資産税や維持費がかかります。
売却することで、維持費を抑えることができます。
相続した土地を売却する際には、譲渡所得税や登録免許税などの税金にも注意しながら、適切なタイミングで売却することが重要です。
4 納税資金の生前贈与
納税資金が不足する可能性に備えて生前贈与を行う理由は、以下の点が理由として挙げられます。
相続財産の減少
生前贈与によって、贈与者の財産額が減少します。
これにより、将来発生する相続税の基礎となる財産額が減り、結果として相続税の負担が軽減されます。
贈与税の基礎控除の活用
年間110万円までの贈与には贈与税がかからないため、この非課税枠を利用して毎年贈与を行うことで、相続時の財産を少しずつ減らし、相続税の負担を分散・軽減できます。
相続時の資金流動性の確保
相続人が生前に贈与を受けることで、相続発生時に資金流動性が高まり、納税資金の準備が容易になります。
相続税率と贈与税率の比較
相続税の税率は、相続財産の価値が高くなるほど上昇します。一方で、贈与税は年間110万円の基礎控除を超えた部分にのみ課税されるため、相続税よりも税率が低い場合があります。
そのため、生前に贈与税を支払った方が、最終的な税負担を減らすことができる場合があります。
以上の理由から、生前贈与は相続税対策として有効な手段とされています。ただし、生前贈与を行う際には、贈与税の申告義務や遺留分の問題など、適切な計画と実行が必要です
5 延納・物納を利用する
相続税の納税資金が不足する場合、延納や物納を活用することで柔軟に対処できます。
それぞれの方法のメリットとデメリットを説明します。
延納の要件
相続税が10万円を超え、金銭で納付が困難な額であり、担保を提供できること。
延納のメリット
納税期限を延ばせるため、資金調達に時間を持てる。
利子税がかからない。
延納のデメリット
担保を提供する必要があるのと、一定の条件を満たす必要がある。
物納の要件
相続税をそのまま相続財産で支払うことができる場合。
物納のメリット
現金調達の必要がなく、物納できる財産を活用できる。
物納のデメリット
物納の手続きが厳格化されており、必要書類の提出が必要。
利子税がかかる場合がある。
納税資金が足りない場合の長期的な対策3つ
納税資金が足りない場合は出来る限り計画的に、長期的な視野で取り組まれることをお薦めします。
長期的な対策として、計画的に取り組めることの代表例が3つあります。
1 生命保険に加入する
生命保険を相続税対策として活用する理由はいくつかあります。
生命保険の非課税枠を利用できる
生命保険金は相続税の非課税枠を活用できます。
法定相続人1人当たり500万円までが非課税とされ、この枠内で受け取った保険金は相続税の課税対象外です。
例えば、亡くなった方が2000万円の死亡保険金を加入していた場合、法定相続人3人であれば1,500万円が非課税となり、残りの500万円だけが相続財産にプラスされます。
受取人の指定ができる
生命保険金は受取人を指定できるため、遺産分割のトラブルを防ぎながら、ご自身の希望する方に財産を引き継ぐことができます。
受取人を指定しておくことで、遺言の代わりにもなります。
納税資金の確保
生命保険金は亡くなられた際に迅速に受け取れるため、納税資金として活用できます。
現金以外の資産が相続財産の大半を占める場合、現金不足で相続財産を売却せざるを得ないケースを防げます。
相続放棄をしても受け取れる
生命保険金は受取人固有の財産となるため、相続放棄をしても受け取ることができます。
生前贈与を使った節税対策
生命保険料の生前贈与を活用することで、相続税の節税効果を得ることができます。
生命保険は相続税対策に有効な手段であり、適切な保険の選択と計画が重要です。
※相続における生命保険の活用について詳しくはこちらをご覧ください。
2 土地活用により賃貸収入を得る
土地活用により賃貸収入を得る理由は、以下の通りです。
相続税評価額の低減
他人に貸している土地は、所有者が自由に扱えないため、相続税評価額が下がります。
これにより、相続税の負担を軽減する事ができるのです。
賃貸経営による節税効果
賃貸物件の建っている土地は利用が制限されるため、評価額が低く算定されます。
これにより、贈与税や相続税の計算基準となる評価額が低くなり、節税効果があります。
安定した収入源
賃貸収入は安定した収入源となり、相続税の納税資金として利用できます。
これにより、現金での納税が困難な場合でも、賃貸収入を納税資金として活用する事ができます。
小規模宅地等の特例の適用
賃貸や事業に使用している土地は、小規模宅地等の特例を適用できる場合があり、相続税評価額を大幅に軽減できる可能性があります。
以上の理由から、土地活用による賃貸収入は、納税資金が不足する場合の有効な対策となります。ただし、土地活用にはリスクもあるため、専門家と相談しながら慎重に進めましょう。
3 賃貸用不動産を譲渡する
相続税の納税資金が不足する場合、賃貸用不動産を譲渡することは一つの有効な対策です。
相続財産に不動産が多いとどうなる?
相続税対策として「相続税額を少なく抑える対策」だけでなく、「納税資金対策」も重要です。
不動産が相続財産の大半を占める場合、納税資金が不足して相続税を払えない状況が生じる事があります。
特に不動産の割合が高い場合、生前から納税資金対策を検討することが重要です。
相続税は原則的に「現金一括納付」です。
不動産が相続財産の多くを占めているケースでは、納税する現金が足りなくなることがあります。
納税資金が不足していると、相続人が相続税を払うことができず、相続した大切な資産を売却しなければならない事態になります。
不動産を売却する際のタイミングや価格には注意が必要です。
不動産の売却を検討する
使い道のない不動産を売却することで、納税資金を確保できます。
相続発生後10か月以内に売却することが難しい場合、他の対策も検討する必要があります。
納税資金の過不足分析
相続税の支払い能力を確認するためには、相続する財産と相続人が保有する金融資産(現預金・生命保険金・上場有価証券等)がいくらあるかを正確に把握し、それに基づいて必要な納税資金がどれだけ用意できるかを見積もることが重要です。
不足していれば、対策が必要でしょう。
相続税の支払い能力の確認方法
相続財産の総額の算出
相続によって得られる財産の全額を計算します。これには、不動産、銀行預金、生命保険の解約返戻金、株式など、すべての財産が含まれます。
基礎控除の適用と課税遺産額の算定
基礎控除は3000万円+(600万円×法定相続人数)
で決定されます。この控除を適用し、課税される遺産の金額を求めます。
相続分の按分
法律に定められた相続分に基づき、課税対象の遺産を相続人ごとに分配します。
相続税率の適用と仮税額の計算
分配された遺産に対して、適切な相続税率を適用し、それぞれの相続人の仮の税額を出します。
税額控除の適用
表に記載されている控除額を仮の税額から差し引き、実際の税額を算出します。
相続税総額の算出
すべての相続人の税額を合計し、家族全体の相続税の総額を計算します。
実際の相続割合に基づく税額の配分
実際に相続した割合に応じて、最終的な各相続人の税額を決定します。
納税資金の準備と対策
相続人が保有する金融資産をリストアップし、家族全体の相続税総額と比較します。
現金、生命保険金、株式など、換金性の高い資産を中心に、納税に必要な資金が確保できているかを検証します。
資金が不足している場合は、資産の一部を売却するか、ローンなどの資金調達を検討する必要があります。
相続税の支払い能力を数値化する一般的な式は以下の通りです。
支払い能力=納税資金÷相続税×100
この比率が100%未満であれば、その差額を補うための対策が必要です。
特に、比率が低いほどより緊急性が高まります。
納税資金の不足を解消する方法としては、以下の二つの方法があります。
節税対策
相続税額を減らすために、適切な節税対策を講じる。
資金調達対策
資金を増やすために、生命保険などの金融商品を活用する。
特に、生命保険は相続税の納税資金として有効に活用できる手段の一つです。
終身保険に有期払いで加入することで、確実に死亡保険金を相続税の納税資金として利用できます。
支払った保険料は、事実上の相続税の前払いと見なすことができ、これにより不動産の売却や物納をせずに、相続税の納税を完了させる事ができるのです。
相続税の計算は複雑であり、専門家の助言を求める事が解決への一番の近道になるでしょう。
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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