単純承認と限定承認の違い
最終更新日:2024/07/09
目次
単純承認と限定承認
単純承認と限定承認は、相続人が相続財産を引き継ぐ方法の違いです。
この2つの方法は、相続人が相続財産と借金をどのように扱うかを決定する際に重要な選択肢です。相続財産と借金の状況に応じて、最も適切な方法を選択する必要があります。
このページで、それぞれの方法について詳しく解説します。
単純承認とは
単純承認とは、相続人が被相続人の遺産と債務を無条件・無制限に引き継ぐ事を指します。
相続開始を知った時から3ヶ月以内(熟慮期間とも言います。)に相続放棄または限定承認の手続きをとらず、何もせずにいると、自動的に単純承認となります。
この制度は、相続人が故人のプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金など)もまとめて受け継ぐことを意味します。
どういう人が単純承認を行うべきか?
確実にマイナスの財産よりもプラスの財産が多い人に限ります。
単純承認を行う際には、相続債務や不要な財産を引き継ぐ必要があるため、相続人固有の財産も責任財産となる可能性があるため、慎重に行う必要があります。
また、単純承認の意思表示は一度すると撤回することはできないため、借金などの相続債務の存否を十分調査した上で行う必要があります。
単純承認の方法はどうやるの?
単純承認の方法については民法上何ら規定がありませんが、相続人が単純承認をする旨の意思表示を表示するだけで効果が発生します。
単純承認が自動的に適応される事例
また、この他に相続人が下記の事を行った場合は単純承認したことになります。
- 遺産の一部もしくは全部を消費、処分した場合
- 相続開始を知った時点で3ヶ月以内に限定承認か相続放棄をしなかった場合
- 限定承認又は相続放棄をした後でも、相続財産の全部もしくは一部を隠し、私的に消費、売却した場合
- 悪意をもって遺産を財産目録に記載しなかった場合
以上の場合、たとえ相続する意思が無くても自動的に単純承認となります。
法定単純承認とは
法定単純承認については、相続人が単純承認の意思表示が無い場合でも、一定の事由が生じた場合には法定単純承認とみなされることがあります。
このような事例では、相続人は自動的に被相続人の権利義務を承継します。
単純承認のメリットとデメリット
単純承認のメリット
メリットには、被相続人の財産の一切を引き継ぐことができる点や、手続きに労力やコストがかからない点があります。
また、各相続人が個別に判断可能であり、次順位相続人に迷惑がかからない点も挙げられます。
単純承認のデメリット
しかしデメリットとしては、被相続人の負債や不要な財産を引き継ぐ必要があることや、相続債務について相続人固有の財産も責任財産となることがあります。
また単純承認の意思表示は一度すると撤回することはできないため、借金などの相続債務の存否を十分調査した上で行う必要があります。
限定承認とは
限定承認とは、相続人が相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、被相続人(資産などを遺して亡くなる本人)の債務及び遺贈を弁済するという留保付きの相続承認の方法です。
具体的には、故人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を相続することができますが、プラスの財産以上にあるマイナスの財産は切り捨てられます。
いずれにしても、相続が発生した早い段階から、相続人の相続財産を調査して、相続しても良いものなのか判断することが重要です。
限定承認を行った方が良い事例
限定承認が有効なケースとしては、以下のようなものが考えられます。
- 相続財産が借金などの超過の状況にあるかどうか不明な場合
- 家業を継いでいくような場合に、相続財産の範囲内であれば債務を引き継いで良いというような場合
- 債権の目途がたってから返済する予定であるような場合
- 債務を加味しても、どうしても相続したい相続財産があるような場合
限定承認によって相続人は自己の固有の財産を守りつつ、必要な財産を相続する事ができます。
限定承認のメリットとデメリット
たくさんある限定承認のメリット
負債の額がわからないときにリスクをとらずに相続ができる
相続人が故人の財産の詳細を全て知ることができない場合や、財産の評価に時間がかかる場合に特に有効です。
例えば、不動産など手元に残したい遺産がある場合や、借金が多いが事業を承継したい場合などです。
余剰があれば相続をすることができる
後日発見された財産についても相続可能であり、相続放棄とは異なり、積極財産と消極財産の内容が明らかでないときには、限定承認をしておくことによってデメリットを回避することができます。
不動産を優先的に買い取ることができる
限定承認を行うと「先買権」が認められます。
先買権とは相続した不動産が競売にかけられたときに、その不動産を優先的に購入できる権利です。
これにより、相続人は自宅を取り戻すことができる場合があります。
債務をプラスの財産の範囲内でしか相続しないで済むため、相続により債務を負う必要がなくなる
相続人は被相続人の債務を引き継ぐことなく、相続した積極財産を上回る借金について自腹で返済する事ができます。
これにより、相続人は被相続人の債務を引き継ぐことなく、相続した積極財産を上回る借金について自腹で返済する事ができます
以上のメリットは、相続人が相続財産の中にマイナスの財産(借入金や未払金など)があっても、プラスの財産(現金、不動産、株式など)を限度に相続できることを意味します。
限定承認のデメリット
限定承認にはいくつかのデメリットがあり、主なものは以下の通りです。
相続人全員の同意が必要
限定承認は、相続人全員が共同で同意する必要があります。
一人でも反対する相続人がいる場合には適用できません。
また、相続人が1人でも単純承認をした場合も限定承認は利用できません。
清算手続きに手間がかかる
限定承認を利用すると、債務の清算手続きが必要になり、非常に面倒な作業が伴います。
限定承認の費用が高額になる
限定承認の費用は、単純承認や相続放棄に比べて高額です。専門家報酬や官報公告掲載料などが含まれます。依
依頼を受ける事務所が少ない
限定承認を依頼できる事務所は少なく、高額な報酬を設定することが多いです。
以上のデメリットを考慮する際には、相続人全員の意見を聞き、必要な手続きを計画することが重要です。
所得税が課税される可能性がある
限定承認を行うと、相続税と譲渡所得税の両方に課税される可能性があります。
具体的には、相続人が相続人へ財産を時価で譲渡したとみなされ、「みなし譲渡所得」として所得税が課税されることになります。
また、相続税に関しては、プラス財産とマイナス財産を相続し、プラス財産が残る場合には相続税がかかりますが、基礎控除があるため相続税がかかるケースは少ないです。
限定承認の期限はいつまで?
限定承認の申立て期限は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。
相続人全員で共同して行う必要があるため、相続開始を知った日が違う場合や他の相続人が相続放棄を選ぶ場合は、期間伸長の申立てをしておくことが重要です。
期間伸長の申立ても3ヶ月以内に行う必要がありますので、ご注意ください。
限定承認の手続き方法
相続の限定承認は、相続人が被相続人の債務の負担を受け継ぐために、相続人全員が共同で行う必要があります。
相続財産と相続人の調査
相続人が所有するすべての財産を詳細にリストアップし、それぞれの財産についての価値を評価します。
また、相続人が誰であるかを明確にします。
相続人全員に連絡・相談
相続人全員に対して財産の範囲を確認し、限定承認を行うかどうかを決定します。
相続人全員が同意しない場合や、財産の評価に問題がある場合は、限定承認の手続きは進まないため、注意深く行う必要があります。
限定承認の申述書・財産目録の作成
限定承認を行う意思を示す申述書と、相続財産の一覧を示す財産目録を作成します。
家庭裁判所に提出する書類の収集
申述に必要な書類
家庭裁判所へ限定承認の申述を行う
申述先:被相続人の最終住所地の管轄の家庭裁判所へ申述書と財産目録、その他の書類を家庭裁判所に提出します。
管轄の裁判所はこちらから調べます。
審判の受理
家庭裁判所が申述を受理し、限定承認の手続きが進行します。
官報へ公告
限定承認に関する手続きを行う際、官報に公告する必要があります。
具体的には、限定承認をした後、五日以内に、すべての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければなりません。
この公告は、官報に掲載される形式で行われ、掲載には約7日かかることが一般的です。
したがって、官報公告の手続きを始める前に、家庭裁判所で日付を確認して掲載依頼することが推奨されています。
また、官報公告の費用は相続財産から支払う必要があります。
まとめ
単純承認と限定承認の主な違いは、相続する財産と負債の範囲にあります。
単純承認は、故人の財産だけでなく、借金や未払い金などの負債も全て引き継ぐことを意味します。
例えば、故人の財産が2,000万円で借金が5,000万円ある場合、単純承認を選ぶと2,000万円の財産を受け取ることができますが、5,000万円の借金も故人の代わりに弁済しなければなりません。
一方、限定承認は、故人のプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
同じ例で言うと、限定承認を選んだ場合、弁済しなければいけない借金は2,000万円までとなり、残りの3,000万円について債権者は弁済を求める事ができません。
単純承認は特別な手続きを必要とせず、相続開始を知った日から3ヶ月以内に限定承認や相続放棄の手続きをしない場合、自動的に単純承認を選んだとみなされます。
また、相続財産を処分したり、隠したりする行為は法定単純承認に該当し、その後限定承認や相続放棄を選ぶ事ができなくなります。
相続の方法を選ぶ際は、相続財産と借金を正確に把握した上で検討することが重要です。
参考リンク: 裁判所 相続の限定承認の申述
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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