保証債務の相続とその対応策

最終更新日:2024/06/24

保証債務の相続

相続放棄の際にしばしば問題となるのは、故人が生前に負った「保証債務」の存在です。

保証債務とは?

保証債務とは、債務者が負っている債務(例えばお金の支払いや品物の提供など)を履行できない場合に、保証人がその債務を代わりに履行する義務の事です。

具体的には、債務者が借入れたお金を返済できなくなった時に、保証人が代わりに返済する責任を負う状況です。

保証債務には「付従性」という特性があり、保証契約が主たる債務に紐づいていることを意味します。

つまり、主たる債務が消滅すれば、保証債務も消滅します。また、保証債務は主たる債務が移転する場合にもそれに伴って移転します。

保証人は「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」といった特定の抗弁権を有しており、保証人が不利な立場に立たされないようにするためのものです。

保証契約は、債権者と保証人との間で交わされる契約であり、保証人になるためには一定の条件を満たす必要があります。

例えば、行為能力者であることや、弁済をする資力を有していることが求められます。また、保証契約は書面で交わされなければ無効となるため、契約書の作成が重要です。

保証債務の範囲は、保証契約締結時に決定され、通常は主たる債務に付随した範囲を保証します。

しかし、利息や違約金、損害賠償などが主たる債務に含まれる場合は、そちらも保証人が返済する範囲に含まれることに注意が必要です。

不動産登記簿謄本を確認すれば債務があるかどうか分かる

故人が自らの借金について主債務者となっている場合、その借金の証拠となる借用書や金銭消費貸借契約書が残されていることが多く、また、そのような文書が見当たらない場合でも、借入金が大きい場合には不動産などを担保にしていることが一般的です。

不動産登記簿謄本を確認することで、債務の存在を容易に把握する事が可能です。

連帯保証人の場合は債務の把握が難しい

一方で、故人が第三者の債務に対して連帯保証人となっていた場合、その事実を把握するのは困難です。

主債務者の金銭消費貸借契約書に故人が連名で署名しているだけで、保証人である故人が契約書のコピーを受け取っていないことも少なくありません。

故人が生前に「私は○○の連帯保証人である」と明かしていなければ、相続人がその事実を知る機会はほとんどありません。

連帯保証債務の存在を長い間知らずにいた場合

そして、連帯保証債務の存在を知らずに数ヶ月から数年の時間が経過しまった後に、主債務者が経済的に破綻するなどの事態が発生していまいます。

その結果として相続人に対して突如として債務の返済を求める請求がなされる可能性があります。

これは相続人にとって予期せぬ大きな負担となります。

相続発生後に、保証債務が発覚した場合

債務が全くないと誤信していたために、相続の開始があったことを知ってから3ヶ月を経過しても、相続放棄の手続きをとらなかった場合には、その誤信をするについて相当の理由があると認められる事があります。

例外的に、債務の存在を知った時(例えば債権者からの督促状が届いた日)から3ヶ月以内に手続きを行うことができます。

その場合、家庭裁判所で相続放棄が受理される形になります。

ただし、相続放棄が認められるのは遺産の相続手続きを行ってなく、遺産に手をつけていない事が前提条件です。

※相続放棄について詳しくはこちらをご覧下さい。

債権者が訴えてくる可能性もある

しかしこのような場合、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理しても、債権者は「当該相続放棄の申述は、期間経過後になされた無効なものである」と主張し、争う可能性があります。

したがって、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されていても、相続放棄の有効性は最終的には訴訟で決まります。

債権者からの訴訟提起により、内容によっては相続放棄が無効とされる可能性もあるため、この点を注意する必要があります。

一度でも遺産を相続、処分、消費してしまうと相続放棄が出来なくなります

相続放棄が認められず、保証債務を相続した場合は、資力でまかなえる額であれば問題ありませんが、自分の資力を超えた多額の債務を被ると、債務整理手続きに拠らざるを得なくなります。

連帯保証債務があるのに相続手続をしてしまった場合

また、一度遺産を相続したり、処分・消費してしまった場合は相続放棄が出来なくなるという面倒な問題が出てきます。

相続放棄は、遺産を相続した後、その財産を処分・消費することで、相続者がその財産を保有する権利を放棄する手続きです。

しかし、相続した財産を処分・消費してしまった場合、相続者はその財産を保有する権利を失い、相続放棄の手続きを行うことができなくなります。

たとえ知らかったとしても、ほぼ認められない

たとえ遺産の他に借金があるとは知らなかったとしても残念ながら相続放棄が認められる事はほぼ無いでしょう。

資力を超えた債務がある場合は債務整理といった別の手続きで対応するしかありません。

このような問題は具体的な状況に応じて専門家によるアドバイスを受けることが最善です。

保証債務を支払うために土地や建物を売ると税金が優遇される

保証債務を支払うために土地建物などを売却した場合、所得がなかったものとする特例があります。

国税庁の指針によると、以下の条件を満たす必要があります。

1. 本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であること。

2. 保証債務を履行するために土地建物などを売っていること。

3. 履行をした保証債務の全額または一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと。

特例の適用を受けるためには、確定申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類を添付する必要があります。

具体的には、保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書、保証債務の事実がわかる書類、上記「特例の適用を受けるための要件」の(3)の事実すなわち、求償権が行使不能であるということを証する書類が必要です。

どのように税金が優遇される?

所得がなかったものとされる金額は、以下の3つのうち一番低い金額です。

保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額

売った土地建物などの譲渡益の額

肩代りをした債務のうち、回収できなくなった金額

保証債務履行に伴う譲渡所得の特例制度を適用する際のポイントや注意点、条件や手続きについて詳しくは、国税庁や専門家に相談することをお勧めします。

参考リンク: 国税庁 保証債務を履行するために土地建物などを売ったとき

まとめ

相続においては、被相続人の方から見て、「なぜ別の人の債務(借金)を自分が支払わなければならないの?」という疑問が生じる事でしょう。

しかし被相続人が保証人として債務を負っていた場合、各相続人は自己の相続分に応じてその債務を相続しなければなりません。

相続放棄は可能ですが相続手続きを行った後では放棄が出来なくなる事が多いので要注意です。

相続放棄が認められるかは、条件によって判断が分かれるので、相続の専門家に相談することをお勧めします。

この記事を書いた司法書士

司法書士 鈴木 喜勝司法書士事務所センス 代表司法書士
【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。

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