相続税評価額の算出 評価額を正確に計算するためのポイント
最終更新日:2024/08/07
目次
相続税評価額の算出
相続税の申告は、実際の市場価格ではなく、相続税法や国税庁の通達に基づいた評価額、すなわち相続税評価額を使用して行われます。
この評価額は、相続税の計算において非常に重要な役割を果たします。
財産の評価方法については、「財産評価基本通達」に詳細が記載されていますが、主なポイントをいくつかご紹介いたします。
まず、土地の評価については、路線価方式や倍率方式などが用いられます。
建物の評価は、固定資産税評価額を基準に行われます。
また、株式や有価証券の評価は、市場価格や取引相場を参考にします。
さらに、預貯金や現金の評価は、そのままの額面で評価されます。
土地の評価方法1. 路線価方式
路線価方式とは
相続税の評価における路線価方式は、市街地にある宅地の評価に用いられる方法です。
この方式では、宅地が面している道路ごとに設定された「路線価」を基に評価額を算出します。
以下に、路線価方式の詳細な解説を行います。
路線価とは
路線価とは、道路に面する標準的な形状の宅地の1平方メートルあたりの価格を指します。
この価格は毎年7月に国税庁から公表されます。
路線価方式の計算方法
路線価方式の基本的な計算式は以下の通りです
評価額 = ※正面路線価 × ※奥行価格補正率 × ※地積
1. ※正面路線価:宅地が面している道路の1平方メートルあたりの価格。
2. ※奥行価格補正率:宅地の奥行距離に応じて適用される補正率。これは、宅地の形状や奥行距離が標準的なものと異なる場合に適用されます。
3. ※地積:宅地の面積(平方メートル)
具体例
例えば、以下の条件の宅地を評価する場合
– 正面路線価:340,000円/㎡
– 奥行価格補正率:1.00(標準的な奥行距離の場合)
– 地積:200㎡
この場合、評価額は以下のようになります:
評価額 = 340,000円 × 1.00 × 200㎡ = 68,000,000円
補正率の適用
宅地の形状や奥行距離が標準的なものと異なる場合、奥行価格補正率を適用します。例えば、奥行距離が長い場合や短い場合には、補正率が変わります。国税庁が公表する「奥行価格補正率表」を参照して適用します¹²。
その他の補正
路線価方式では、他にも様々な補正が適用されることがあります。例えば、角地の場合には「側方路線影響加算」が適用され、評価額が増加することがあります。
路線価の調べ方
路線価は国税庁のホームページや全国地価マップなどで確認することができます。
評価する土地の所在地を確認し、該当する路線価を調べます。
路線価方式は、相続税の評価において非常に重要な役割を果たしますが、正確な評価を行うためには専門的な知識が必要です。
土地の評価方法2. 倍率方式
倍率方式とは
倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地評価方法です。
この方法では、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出します。
倍率方式の基本的な流れ
評価対象地の特定
まず、評価対象地が路線価方式か倍率方式のどちらに該当するかを確認します。
路線価図が存在しない地域は倍率方式が適用されます。
固定資産税評価額の確認
固定資産税評価額は、市区町村が算出しており、毎年送付される固定資産税・都市計画税納税通知書に記載されています。
評価倍率の確認
国税庁の「評価倍率表」で、評価対象地に適用される倍率を確認します。
地域や地目によって倍率は異なります。
評価額の計算
固定資産税評価額に評価倍率を乗じて、相続税評価額を算出します。
注意点
地目の確認
相続開始時点の現況で地目を判断します。
登記上の地目と実際の地目が異なる場合は、現況に基づいて評価します。
補正計算
セットバックを必要とする宅地や都市計画道路予定地の区域内にある宅地など、特定の条件を満たす場合は補正計算が適用されます。
このように、倍率方式は固定資産税評価額と評価倍率を基にして土地の評価を行うシンプルな方法ですが、地域や地目によって適用される倍率が異なるため、正確な確認が必要です。
借地の評価
借地権の評価方法は、相続税の計算において重要な要素です。
借地権とは、建物を所有する目的で土地を借りる権利のことを指します。
借地権の種類と評価方法
普通借地権の評価方法
自用地評価額に借地権割合を乗じて算出します。
普通借地権の評価額 = 自用地評価額} × 借地権割合
自用地評価額
路線価地域では「路線価 × 地積」、倍率地域では「固定資産税評価額 × 倍率」で算出します。
定期借地権の評価方法
借地権者に帰属する経済的利益と借地権の存続期間を基に評価します。
計算は複雑で、専門知識が必要です。
一般定期借地権の評価額=自用地評価額 ×(1-※底地割合)× ※Y
※一般定期借地権が設定された時点の底地割合
※Y=課税時期の一般定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率÷一般定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
一時使用目的の借地権の評価方法
雑種地の賃借権の評価方法を用いて計算します。
借地権割合の確認方法
借地権割合は国税庁の路線価図や評価倍率表で確認できます。
地域ごとに異なり、都市部の商業地では高く、郊外の住宅地では低く設定されています。
注意点
契約内容の確認
賃貸借契約の内容や賃料、権利金の有無などを総合的に判断して評価します。
専門家へ相談する事
定期借地権の評価は複雑なため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
借地権の評価は、相続税の計算において重要な要素ですので、正確な評価を行うために専門家の助言を受けることが重要です。
建物の評価方法
被相続人が利用していた場合
被相続人が住んでいた家屋の場合、相続税評価額は以下の計算式で算出します。
固定資産税評価額 × 1.0 固定資産税評価額×1.0
固定資産税評価額は、市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」に記載されています。
賃貸アパートの場合
賃貸アパートの場合の計算式は次の通りです
固定資産税評価額 × ( 1 − 借家権割合 × 賃貸割合 ) 固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は30%と定められており、賃貸割合は貸している部分の床面積の割合です。
第三者に貸していた場合
第三者に貸していた場合の計算式は以下の通りです
固定資産税評価額 × ( 1 − 借家権割合 ) 固定資産税評価額×(1−借家権割合)
この場合も借家権割合は30%です。
亡くなる前に増改築等した場合
増改築等を行った場合の計算式は次の通りです
増改築等前の家屋の固定資産税評価額 + ( 増改築等費用 − 死亡日までの償却費 ) × 70 % 増改築等前の家屋の固定資産税評価額+(増改築等費用−死亡日までの償却費)×70%
償却費は以下の式で算出します
増改築等費用 × 90 % × 経過年数 ÷ 耐用年数 増改築等費用×90%×経過年数÷耐用年数
上場株式の評価
証券取引所に上場されている株式を上場株式といい、上場株式の評価は、その株式が、上場されている証券取引所が公表する課税時期(被相続人の死亡日や贈与を受けた日)の最終価額終値によります。
しかし、上場株式は、日々価格変動するものであり、上場株式の相続税評価額は、以下の4つの価格のうち最も低い価格を基に計算します
- 相続開始日の終値(被相続人の死亡日)
- 相続開始月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始月の前月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始月の前々月の毎日の終値の月平均額
この4つの価格のうち最も低い価格に保有株式数を掛けて評価額を算出します。
具体例
例えば、被相続人が亡くなった日が2月13日で、保有株式数が100株の場合、以下のように評価します
- 相続開始日の終値:14,720.12円
- 相続開始月の毎日の終値の月平均額:14,375.28円
- 相続開始月の前月の毎日の終値の月平均額:14,031.84円
- 相続開始月の前々月の毎日の終値の月平均額:12,787.05円
この場合、最も低い価格は12,787.05円ですので、評価額は以下のようになります
12 , 787.05 円 × 100 株 = 1 , 278 , 705 円 12,787.05円×100株=1,278,705円
株価の確認方法
株価の確認方法は主に以下の通りです
相続発生日の終値
証券会社の残高証明書に記載されています。
月次平均株価を確認
東京証券取引所やYahoo!ファイナンスのサイトで確認できます。
注意点
配当期待権や未収配当金も相続財産に含まれるため、忘れずに計算する必要があります。
相続税申告書には、保有株数や単価を記入し、評価明細書を添付することが推奨です。
生命保険金の評価
被相続人(亡くなった方)が保険料を負担していた生命保険契約に基づいて受け取る生命保険金は、相続税の対象となります。
非課税限度額がある
生命保険金には「法定相続人の数 × 500万円」の非課税限度額が設けられています。
例えば、法定相続人が2人の場合、非課税限度額は1,000万円です。
この非課税枠は相続人のみが利用でき、相続人以外の受取人には適用されません。
課税対象額の計算方法
非課税限度額を超える部分が相続税の課税対象となります。
例えば、法定相続人が2人で、生命保険金が2,000万円の場合、1,000万円(非課税枠500万円×2名)が非課税となり、残りの1,000万円が課税対象となります。
特別なケース
相続放棄があった場合
相続放棄があっても、法定相続人の数は減りません。
保険金受取人が相続人以外の場合
非課税枠は適用されず、全額が課税対象となります。
その他の注意点
生命保険金は遺産分割の対象にはならず、受取人の固有財産となります。
生命保険金は相続放棄をしても受け取ることができます。
退職手当金の評価
被相続人(亡くなった方)が受け取るはずだった退職手当金や、死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金は、相続財産とみなされ、相続税の対象となります。
退職手当金にも非課税限度額がある
退職手当金には「法定相続人の数 × 500万円」の非課税限度額が設けられています。
例えば、法定相続人が3人の場合、非課税限度額は1,500万円となります。この非課税枠は相続人のみが利用でき、相続人以外の受取人には適用されません。
課税対象額の計算
非課税限度額を超える部分が相続税の課税対象です。
例えば、法定相続人が3人で、退職手当金が2,000万円の場合、1,500万円が非課税となり、残りの500万円が課税対象となります。
算出方法 : 受給金額 - 非課税枠(500万円×法定相続人の数)
特別なケース
相続放棄があった場合
相続放棄があっても、法定相続人の数は減りません。
受取人が相続人以外の場合
非課税枠は適用されず、全額が課税対象となります。
その他の注意点
退職手当金は遺産分割の対象にはならず、受取人の固有財産となります。
退職手当金は相続放棄をしても受け取ることができます。
生命保険契約に関する権利(保険事故が発生していないもの)
1. 生命保険契約に関する権利とは?
生命保険契約に関する権利とは、被相続人が生前に解約していれば受け取ることができた解約返戻金や満期保険料などを受け取る権利のことです。
2. 相続税評価額の計算方法
生命保険契約に関する権利の相続税評価額は、相続開始日の時点で保険を解約したと仮定して計算した解約返戻金の額で評価します。
具体的には以下のように計算します。
解約返戻金の額
相続開始日に解約した場合に支払われる解約返戻金の額。
前納保険料や剰余金
これらがある場合は解約返戻金に加算されます。
源泉徴収される所得税等
解約返戻金に対して源泉徴収される所得税等がある場合は、その金額を差し引きます。
3. 特別なケース
掛け捨て保険
解約返戻金のない掛け捨て保険は評価の対象外です。
保険会社への確認
解約返戻金の額が不明な場合は、保険会社に確認する必要があります。
4. 注意点
保険料負担者の確認
相続税の評価において重要なのは、誰が保険料を負担していたかです。
遺産分割協議
生命保険契約に関する権利が通常の相続財産かみなし相続財産かによって、遺産分割協議の対象になるかが異なります。
参考サイト
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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