遺産の分類と相続方法 賢い遺産の引き継ぎ方とは
最終更新日:2024/05/24
遺産の分類と相続方法
遺産や相続財産とは、故人がこの世を去った後に遺す「権利と義務」を指します。
これには、故人の財産だけでなく、負債や法的責任も含まれるので注意が必要です。
プラスの財産一覧
不動産(土地・建物)
故人が所有していた住宅、土地、商業施設、農地、賃貸物件などが含まれます。
不動産関連の権利
借地権や地上権、定期借地権など、不動産に関連する様々な権利も遺産の一部です。
金融資産
現金、銀行預金、株式、国債、社債、その他の有価証券、貸付金、売掛金、手形債権などがこれに該当します。
動産
自動車、家具、美術品、宝石、貴金属など、移動可能な財産も遺産に含まれます。
その他の財産
株式、ゴルフ会員権、著作権、特許権など、故人が生前に保有していた様々な資産も遺産に含まれます。
マイナスの財産一覧
借金
故人が残した借入金、買掛金、手形債務、振出小切手などの債務も遺産に含まれます。
公租公課
未払いの所得税、住民税、固定資産税など、故人が生前に納付していなかった税金も遺産の一部です。
保証債務
故人が保証人となっていた債務も、相続人が負担する事になる場合があります。
その他の負債
未払いの医療費、預かり敷金、未払いの利息など、故人が生前に負っていたその他の負債も遺産に含まれます。
遺産に該当しないもの一覧
遺産として扱われない特定の権利や財産があります。
以下のものは相続の対象外とされ、故人の意志や法的な規定によって別途取り扱われるものです。
財産分与請求権
離婚などで生じる財産分与の際に発生する権利であり、相続財産とは別に考慮されます。
生活保護受給権
生活保護法に基づく受給権であり、個人の権利として相続の対象外です。
身元保証債務
故人が他人の身元保証人となっていた債務で、これは相続人が自動的に引き継ぐものではありません。
扶養請求権
故人に対する扶養請求権は、相続財産とは別に扱われる個人の権利です。
受取人指定のある生命保険金
生命保険の受取人が指定されている場合、その保険金は遺産とは別に受取人に直接支払われます。
墓地、霊廟、仏壇・仏具、神具など祭祀に関するもの
これらは故人の宗教的または文化的な意志に基づいて別途管理されるため、一般的な遺産とは区別されます。
遺産の評価をどうするか?
遺産の評価に関しては、民法では具体的な方法が定められていないため、通常は市場価値に基づいて行われます。
しかし、遺産の評価は単純な作業ではありません。
評価の手法によって相続税の算出額が変動することがあり、また、民法と税法では遺産の範囲や評価の取り扱いが異なるため、専門的な知識が求められます。
遺産の額によっては相続税を支払う必要がある
相続財産の総額が一定の基準(3,000万円、ただし相続人1人に600万円の基礎控除がつく)を超えると、相続税の計算のために特定の評価が必要となります。
この評価額は、相続によって受け取ることができる金額や支払うべき税金に直接影響を及ぼします。
したがって、相続税や不動産の評価に精通した税理士や不動産鑑定士に相談することが重要です。
遺産の評価については、財産と負債を総合的に考慮し、相続人の間で公平な分割が行われるようにすることが重要です。遺産の評価は、相続税の申告や遺産分割協議の基礎となるため、専門家のアドバイスを受けることも一つの方法です。
相続人同士のトラブルを防ぐ為にも必ず公正な手続きを
遺産の正確な評価には、不動産の市場価値、金融資産の時価、動産の現状価値など、多岐にわたる要素を検討する必要があります。
また、マイナスの財産についても、債務の残高や税金の未納額を正確に把握し、相続人が負担すべき金額を明確にすることが求められます。
遺産の評価と分割は、相続人間の紛争を防ぐためにも、公正かつ透明性のある手続きを経ることが望ましいです。
財産を相続する3つの方法
相続に関する手続きは、遺産の内容と相続人の意向によって異なる複数の選択肢があります。
まず、遺産の中で価値がプラスとなる財産とマイナスとなる負債を精査し、それぞれの財産が相続人にとって有益かどうかを見極める必要があります。
この評価を行った上で、相続を進めるか否かの決定を下します。
相続には主に以下の3つの方法が存在します?
方法その① 相続財産を単純承認する
相続財産を単純承認するという選択は、故人から受け継がれるすべての財産、つまりプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含めて、一切の区別なく全てを受け入れるという決断を意味します。
この方法を選ぶことで、相続人は遺産の全体をそのまま引き継ぐことになり、財産だけでなく負債やその他の責任も受け継ぎます。
遺産分割協議で相続人同士の合意を得る
単純承認を選んだ場合、相続人は遺産に関連する権利と義務を全て受け継ぎ、その後の手続きにおいては、故人の遺した財産をどのように管理し、分配するかについて具体的な計画を立てる必要があります。
遺産分割協議を行い、相続人間で財産の分け方について合意に達することが求められます。
一度、単純承認を選択すると変更できない
この選択肢を採用する際には、遺産の全貌を正確に理解し、受け継ぐ財産と負債のバランスを考慮することが重要です。
また、単純承認後には、相続放棄や限定承認といった他の選択肢を選ぶことはできなくなるため、慎重な判断が必要となります。
遺産の管理と分配に関する手続きは、相続人の責任となるため、遺産に関する法的な義務を全うするためにも、適切な法的支援を得ることが望ましいでしょう。
単純承認について詳しくはこちらをご覧ください。
方法その② 相続財産を放棄する
相続財産を放棄する選択は、遺産の中で負債や不要な財産が含まれている場合、それを一切引き継がずに済む方法です。
この選択肢は、特にマイナスの財産がプラスの財産を上回るとき、つまり負債が遺産の価値を下回るときに選択します。
相続放棄という行為は、相続人が遺産を受け継ぐ義務から解放されることを意味し、法的には相続人が遺産に対して一切の権利を主張しないことを宣言するものです。
期限は3ヶ月
相続放棄を行うためには、相続が開始されたことを知った日から数えて3ヶ月以内に、家庭裁判所に正式な申立てを行う必要があります。
この期間内に申立てを行わなければ、相続放棄の権利は失われ、自動的に単純承認したと見なされる可能性があります。
したがって、相続放棄を考慮している相続人は、期限内に適切な手続きを踏むことが重要です。
また、相続放棄を行う際には、遺産の全体像を正確に把握し、将来的に発生するかもしれない負債に対しても責任を負わないようにするための慎重な判断が求められます。
相続放棄について詳しくはこちらをご覧ください。
方法その③ 相続財産を限定承認する
限定承認は、故人の遺した財産の全容が明確でない場合や、プラスとマイナスの財産のバランスが不確かな状況下で選択される方法です。
この選択肢を採用することにより、相続人は、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐことが可能となります。
これは、もし最終的にプラスの財産がマイナスの財産を上回る場合、相続人は遺産を全て受け継ぐことができるということを意味します。
相続人全員が限定承認を選択しなければならない
相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して限定承認の申立を行う必要があります。
この手続きは、表面上は相続人を負債から守る安全策のように思われがちですが、実際には共同相続人全員の合意が必要であり、一人でも単純承認を選択した相続人がいる場合は、限定承認の申立を行うことができません。
そのため、この選択肢は、相続人間の調整と合意形成が必要となり、時には複雑な交渉を伴うこともあります。
限定承認を検討する際には、相続人全員が情報を共有し、協力して行動することが重要です。また、遺産の使い込みや隠匿があった場合には、その行為が単純承認と見なされる可能性があるため、注意が必要です。
適切な法的アドバイスを受けながら、慎重に手続きを進めることが望ましいでしょう。
参考リンク 裁判所 相続の限定承認の申述
この記事を書いた司法書士
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【保有資格】: 司法書士、行政書士
【専門分野】: 相続全般、遺言、生前対策、不動産売買
【経歴】: 2010年度行政書士試験合格、2012年度司法書士試験合格。2012年より相続業務をメインとする事務所と不動産売買をメインとする事務所の2事務所に勤務し実務経験を積み、2014年に独立開業。独立後は自身の得意とする相続業務をメインとし、相続のスペシャリストとして相談累計件数は1500件を超える。2024年司法書士事務所センス開業10周年、現在に至る。
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